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2004.06.19

松下竜一さんのこと

山国川に架かる小祝橋。
山国川は大分県西部の山国町を源流に、耶馬溪を通って周防灘に注ぐ
56kmの一級河川。
最も下流の小祝橋に立つと、山国川が海と繋がっており、橋の上から
水平線が一望できる。
ここから見える海が、故郷で一番好きな風景だった。

この小祝橋は私の中学校の登下校の道でもあった。
早朝、あるいは夕方、私はその人と何度かすれ違った。
その人は、一見いかつい風貌で、いつも自転車で橋の上に現れ、すれ違う。
自転車の荷台には木の(多分)箱が乗せられて、豆腐屋さんのラッパが
見えた。なので、この人はお豆腐屋さんなんだと分かった。

今でも、その人の自転車が橋の向こうから現れて、ぎゅっと口を結んだまま、
その人が自転車を漕ぎながらすれ違った光景が絵のように思い出される。

故郷を離れてから、緒方拳さん主演のテレビドラマ『豆腐屋の四季』のモデル
があの人だと分かった。
(顔つきといい、緒方拳さんはぴったり!)
同時に、そのドラマの原作はあの人自身が書いた『豆腐屋の四季』という
作品だと知った。
(残念ながら、当時、私はシナリオライターのシの字も考えたことのない時代
で、ドラマは未見のまま)

そう、小祝橋ですれ違っていたあのお豆腐屋さんこそ松下竜一さんだった。

私もようやくプロの脚本家になれた頃、故郷の大先輩である松下さんにお会
いしてみたいと熱く考えたことがある。
しかし、お会いしてなにを言いたいのか私は・・・?
高校を卒業して早々に故郷を出て転々とした私に対して、松下さんは故郷に
根を張って文筆活動を続けておられる。
さらに、頭でっかちに理屈ばかりを並べる私に対して、松下さんは市民運動家
として様々の活動を実践しておられる。
作品の感想を伝えて、松下さんの生き方を賛辞するだけなら、ただのミーハー
のファンと同じじゃないか・・・
会いたい・・・しかし・・・そう思いながら、今日まで来てしまった。

昨日6月18日の新聞にて松下竜一さんの訃報を知る。
この日は私が小学校3年の時に病死した父の命日で、子供の頃の思い出の
中を彷徨っていた。
そんな時、松下さんの訃報を知り、改めて様々な記憶が甦ってきた。
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【松下竜一氏(まつした・りゅういち=ノンフィクション作家、市民運動家)】
 17日午前4時25分、肺出血の出血性ショックのため大分県中津市の病院
 で死去、 67歳。大分県出身。
 高校卒業後、家業の豆腐屋を手伝いながら短歌を詠み、朝日歌壇で入選
 を続ける。日常を短歌と散文でつづった「豆腐屋の四季」で69年デビュー。
 「暗闇の思想を」「砦に拠る」「記憶の闇」「狼煙を見よ」などの硬派のノン
 フィクションで知られた。
 「ルイズ-父に貰いし名は」で講談社ノンフィクション賞。
 地道な市民運動家としても知られ、73年機関誌「草の根通信」創刊。反核・
 反原発のリーダー的な存在だった。
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ご冥福、心よりお祈りいたします(合掌)

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