映画『21グラム』
2003年アメリカ(日本公開2004年)
監督:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ
脚本: ギジェルモ・アリアガ
出演:ショーン・ペン、ナオミ・ワッツ
ベニチオ・デル・トロ
【内容】
余命一ヶ月と宣告され、心臓移植の順番を待つ数学者・ポール(ショーン・ペン)。全身刺青の前科者だが、今は信仰に没頭することで心の平穏を保ち、真面目に働くジャック(ベニチオ・デル・トロ)。優しい夫と2人の娘と幸せに暮らすクリスティーナ(ナオミ・ワッツ)。
ある日、ジャックの不注意による交通事故で、クリスティーナは夫と娘を失ってしまう。だが、その夫の心臓が移植されポールの命を蘇らせる。このことがきっかけになり、全く交わりのなかった3人の運命が、引き寄せられていく・・・。
【感想】
心臓移植をテーマにした映画・・・これだけの知識で見始めた。
前半はまるでジグソーパズルのよう。3人の人間の過去の断片が時間経過を無視してアトランダムに(もちろん計算されつくされた構成なのだが)めまぐるしく展開していく。
後半になってやっと全体の形が見え初めて、パズルの断片を嵌めるべき場所が分かってくる。
とにかく、ラストに来るまで全体を1本のストーリーとして繋ぎ合わせるために頭の中をめまぐるしく動かさなければならない。それでも、最後の最後には、じわじわと涙が込み上げてきた。
続けて2回目を観た。そしてまた、最後のショーン・ペンのモノローグで泣いてしまった。
命が消えるその時に、人は21グラムだけ軽くなる
どんな人も
チョコバー1個の重さ
ハミングバード(ハチドリ)の体重
人は何を失い
何を残すのか
善人も悪人も、金持ちも貧乏人も、太った人も痩せた人も、幸せだった人もそうでない人も、死ぬ時には誰もが等しく21グラム軽くなるという。
21グラム・・・それは何の重さ?
天使が「魂」を連れて行くから?
それとも生まれた瞬間から背負っていた「原罪」が解かれるから?
21グラムに関してはいくつかの解釈があるようだけれども、いづれにしてもその背景にあるのはキリスト教だ。
妊娠中絶、人工授精、臓器移植・・・医科学の進歩により人間は命をコントロールできるようになった。
それは神の意思に背くことなのか?
それとも、医科学の進歩さえ神の意思と受け止めるべきなのか?
この映画の中の背景にはそんな「神」への問いかけがあふれている。
妊娠中絶の挙句、人工授精を望むポールの妻。そんな妻に怒るポールは臓器移植で命を救われる。
神は髪の毛1本までもちゃんと見ている・・・あらゆることを神の意思として信仰に生きるジャック。だが、不注意でクリスティーナの夫と幼い子供2人を撥ねて死なせてしまい、これも神の意思なのか?!と悩み苦しみ、自殺を試みるも失敗。そして神を捨てる。「自分で下した決断が、俺の鏡だ。一人で向き合うしかない」と。自らを罰するため、家族を捨てて家を出る・・・。
一挙に大切な家族を失い心がバラバラになるクリスティーナ。この時から彼女の中には無しか存在しない。しかし、ポールの愛を感じていくと同時に家族を殺した犯人・ジャックへの怒りと憎しみの感情が生々しく甦ってくる・・・。
この3人が初めて顔を合わせたモーテルの一室で信じられないことが起きる・・・。
その後にやっと見えてくる希望・・・。
やはり、すべては、神の采配なのだろうか?
Life goes on・・・それでも人生は続く・・・
それにしても、偶然、ベニチオ・デル・トロの作品を続けて見てしまったけど、独特の存在感がなんともいえずに素晴らしい!
【脚本のこと】
こんなにも時間が交錯する作りは、当然、編集段階でこのように構成したんだろうと思っていた。が、公式HPの監督のコメントを読んで驚いた。
イニャリトゥ監督:撮影自体は物語の筋の通りに進んだんだ。実は脚本が3つあって、一つは出来上がった作品のように時間が交錯するもの、もう一つは各人物一人一人の物語の通りに進んでいくもの。それからシューティグ・スクリプトという僕が撮影をする通りに書かれた脚本があったんだ。
う~ん、3通りの脚本を全部読んでみたい!
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