映画『小さな中国のお針子』
2002年 フランス(中国語)
監督・脚本・原作:ダイ・シージエ
脚本:ナディーヌ・ペロン
出演:
ジョウ・シュン
チュン・コン
リィウ・イエ
ツォン・チーチュン
【ストーリー】
1971年、中国。文化大革命の嵐が吹き荒れる只中、医者を親に持つ17歳のマーと18歳のルオは、反革命分子の子として再教育のため山奥深くに送り込まれた。そこは、チベットとの国境沿い、鳳凰山という名が示す通り、手つかずの自然とけわしい山々がそびえる、忘れられた地域・・・・・・。 雲に至る石段を上がると、小さな村と湖がひっそりと姿を現わす。村人は素朴で、読み書きを知らず、村長によく従っていた。
二人の再教育生活が始まった。彼らを待っていたのは、屈辱的な仕事や、つらい畑仕事、そして未開の鉱山から素手で鉱石を抽出するなどの過酷な作業だった。
ある日二人は、年老いた仕立て屋と美しい孫娘のお針子に出会う。仕立て屋の持っているのは時代遅れのミシンだが、西洋文明からかけ離れたこの村ではモードを生み出す近代化の象徴だった。
ルオはたちまちお針子に恋をする。そして文盲のお針子に物語を語り聞かせてあげたいと思い立つ。
お針子は、ルオとマーに、やはり再教育で来ている若者が、外国小説を寝床の下のかばんいっぱいに隠していると伝える。この若者は、作家を父に、詩人を母に持ち、あだ名を“めがね”といった。
彼らはこのかばんを盗むことを決意する。そして、そこで見たものは、まさしく宝物と呼ぶべき本の数々だった。フロベール、ユーゴー、トルストイ、ディケンズ、ロマン・ロラン、デュマ、ルソー、そしてバルザック。
これらすべての文学は高度に反動的とされ、禁止されていた。見つけたことは誰にも言えない。ルオとマーは、昼間は働き、夜になると誰にも見つからないように読書にふけった。同じ危険を冒す3人は結びつきをより深め、恋愛と友情の間で揺れ動いた。
毎晩、ルオとマーは村人たちに「ユルシュール・ミルエ」や「モンテ・クリスト伯」の冒険話からヒントを得た物語を聞かせていた。もちろん、革命を称える要素を巧みに盛り込みながら。村長は、偉大なる指導者毛沢東の功績をほめている限りはご機嫌だったのだ。仕立屋の老人が魅せられたのは、デュマが描いた人物の優雅な姿だった。仕立屋としての創作意欲が地中海のそよ風に刺激され、あたかも物語から抜け出したような洋服を作って村の娘たちを変身させてしまったほどだった。
ルオとマーは見つけた小説から知性の糧を得て、誘惑する方法も習得していった。お針子はお気に入りの作家、バルザックの小説を通して感情教育を受けていく。バルザックの小説は、女性の美についてとてもよく書かれているから好き、と彼女は言った。しだいにお針子は自由という意識に目覚めていく。まわりを気にせず、ルオとマーと行動をともにし、自由に生きることを始めた。さらに読み書きを学び、自由に考えることを始めた。また、ルオとマーが教えたこと以上に大きなことを夢想し、自由に夢を抱くことを始めた。そして彼女はルオと愛し合い、人を自由に愛することを知った。
その後、ルオは病気の父を見舞うため特別の許しを得て、2ヶ月間村を離れることになった。彼女が妊娠しているなどと夢にも思わずに。マーはお針子をひそかに愛していたが、ルオへの友情のために気持ちをひた隠しにしていた。そのマーが、彼女のために病院へ行き、ロマン・ロランの小説一冊と引き換えに、医者に内密に手術をすることを引き受けさせる。
ルオが村に戻ってきた時、お針子は村を出る決意をする。たったひとりの出発だった。バルザックが、彼女に新しい地平線を開き、四川省の山々の向こう側には、もっと自由な大地が拓けていると思わせたのだろうか。
27年後。有名なヴァイオリニストとなったマーは、現在パリで生活している。ある日、あの村が三峡ダム建設のため、まもなく水に沈むというニュースを知る。再教育を受けた思い出の地に行こうと、中国に向かうマー。
そこで、彼は懐かしい人たちとの再会を果たすのだった。
次にマーは上海へ行き、現在では名医として知られるルオを訪ねる。青春時代の思い出を語りあう二人。数々の思い出、今は亡き人々のこと。仕立屋の老人はすでに亡くなっていた。あの村も揚子江の川底に沈んでいく。そして二人が恋したお針子がいまどこにいるのかを知る術もなかった・・・。
http://www.albatros-film.com/movie/ohariko/ より
【感想】
フランス国内で40万部を越すベストセラーになり、数々の文学賞を受賞、世界30ヶ国語に翻訳されたダイ・シージエ監督の自伝的小説『バルザックと小さな中国のお針子』を自ら脚本・監督した作品。
険しい山中の延々と続く石段を登る冒頭のシーンから、とにかく映像が美しい。
そして2人の青年と若いお針子の愛と友情に監督の温かい眼差しが注がれている。
さらに、彼らを取り巻く辺境の地の村人たちとのエピソードすべてにユーモアが散りばめられており、時代背景も含めてともすれば暗い作品に陥りそうなのに、暖かく清々しささえ感じる作品に仕上がっている。
一冊の本に出会ったことで、自分の人生を自分で選び取るお針子の凛とした潔さ。
普通だったら拍手を送るところだけど、残された青年たちの気持ちを思うと、ちょっと同情さえしたくなってしまった(笑)
きっと誰にでもあるだろう、忘れがたいほろ苦い初恋の痛み・・・のようなものを思い出させてくれる作品だった。
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