少女よ・・・女子高生タリウム殺人事件
第一報を聞いたのは、何度も推敲を重ねた企画書の最後の追い込みに入っている時だった。
オリジナルのこの企画書には三人の中高生が出てくる。
三人ともが、それぞれ違う形で生と死の境目に立たされている。
そんな話にのめり込んでいる最中に飛び込んできた16才の女子高生による母親毒殺未遂事件。
ネットで彼女の日記を探したがすでに削除されている。しかし、みんなどこからどうやって手に入れたのかは知らないが、彼女の日記のコピーが出回っている。
その日記を読んでいて浮かんでくるのは酒鬼薔薇聖斗による神戸連続児童殺傷事件。
少女よ、きみまでも・・・
どんな根拠があるわけじゃないが、そのフレーズが頭の中から離れない。
かつて『暗い森―神戸連続児童殺傷事件』(朝日新聞大阪社会部 )を読んだ時、正直私は 中学3年生(14才)の文章にとても驚いた。
彼の文章はいろいろな文献のパクリ、切り貼りだといわれている。
「俺は真っ直ぐな道を見失い、暗い森に迷い込んでいた」
このフレーズだけでもダンテの『神曲』だったかゲーテの『ファウスト』だったか、あるいは好んで読んだコミックの影響だったかは知らない。しかし、それらのフレーズを自分の文章に取り込んで違和感なく書く能力。それに驚いたのだ。
16才の女子高生の日記を読んでいて、酒鬼薔薇聖斗と同じような印象を受けてしまった。
彼女自身、日記の中で1度だけ酒鬼薔薇聖斗のことに触れている。
07月30日 残酷な現実感
唐突だけど、僕は酒鬼薔薇少年が好きではありません。
自作の詩だという「懲役13年」は、神曲等の有名な詩を切り貼りしただけの代物ですし。
犯行声明も何処か...
(上記文章が中途半端になっているのは、引用先の日記のコピーがそうなっているから)
彼女はネコやウサギやハトをばらばらに切断して“実験材料”にしていたらしいが、そのたびに酒鬼薔薇聖斗のことを意識して「自分と彼とは違う」と自分に言っていたのではないだろうか。
確かに、酒鬼薔薇聖斗には生育歴の中で何か大きな欠落があったような気がする。
だが、彼女には酒鬼薔薇聖斗ほどの異常性は感じない。それは、私が彼女と同性だからだろうか?
例えば彼女が、“岩本亮平”と名乗ったこと も、その 名前の由来であるネット小説『絶望の世界』 を読めば、彼女がその名前を名乗りたくなっても不思議ではない気がする。
『絶望の世界』 というのは数年前、宮谷シュンジという人が書いたリアルタイムで更新される日記形式のオンライン小説。アンダーグラウンドではとても人気があり、出版化の話まであったそうだ。
私はとりあえず、序章から8章までを読んでみた。
そして、一挙にその世界にハマった。
主人公の高校生・岩本亮平が学校でイジメにあう過程が日記形式で綴られている。
私は彼の受けたイジメが架空のものだとは思えない。ここまでとは言わないが、同じようなイジメを受け、誰にも言えずに耐えている子供たちも多いのではと感じた。
そして、やがて登場人物のすべてがインターネットの匿名性の迷路にハマりこんでいく・・・。
読み終えて、何と言えばいいのか・・・今まで感じたことのない切なさに覆われた。
仕事を終えて、『光と影の世界』 『希望の世界』と読み進んだが、ハッキリ言って、インターネットの匿名性がもたらす狂気の部分が膨らんで いって・・・ちとしんどい(ラストまで辿り着いてない・・・)。
それにしても インターネット時代ならではの、すごい小説 だと思う。
今の中高生の一部がこの小説に共感する部分を見出すことが、それほど異常なことだとは思えない。
16才女子高生が日記の中で「僕」と書いていたことも、私には違和感がない。
私は一時期、森田童子にハマったことがある。
テレビドラマ「高校教師」の主題歌「ぼくたちの失敗」で再浮上した森田童子。
何枚かLP(の時代でした^_^;)を持っているが、彼女の歌はほとんど「ぼく」という一人称が使われている。
森田童子に影響されたわけじゃないけれど、私も若~い一時期、自分を「ぼく」と言っていた時期がある。
よく考えてみたら、「女の癖に」という言葉に敏感で、「なんで女だからと区別されるの?」というレジスタンスの気持ちが強かった時期だったかも。
その気持ちは、女の子だったら持っても不思議ではない と思うが・・・。
さらに16才女子高生がグレアム・ヤングに惹かれたことも、それ自体は異常だとは思わない。
また自分のことで恐縮だけど、私はある時期、夢野久作にハマっていたことがあり、『ドグラ・マグラ』をはじめ『瓶詰の地獄』『少女地獄』『押絵の奇蹟』『狂人は笑う』『犬神博士』など“日本一幻魔怪奇の本格探偵小説”を読み耽った。
さも正義や正常を看板のように貼り付けて生きる人間の闇の部分に潜む狂気・・・そんな部分に惹かれる時期があることは異常ではないと思う。
思春期、スポーツや好きな歌手や俳優などに惹きつけられるのと同じだ・・・と思う私はおかしいのだろうか・・・。
ただ、私が上記に書いたことは、思春期から大人に移行していく時の通過点。
ほとんどの人は、その通過点を通って、架空の世界と現実世界をきちんと区別して大人として人間としての分別を身につけて社会生活を送る。
彼女は、その通過点で躓(つまず)いてしまった・・・・・・
グレアム・ヤングに心酔し、薬品を集めることまでは彼女の趣味嗜好の範囲内だ。
感情に支配され矛盾の多い現実に比べて、化学の世界は感情抜きで数式・化学式できちんと答えが出る合理的な世界。
しかし、彼女は脳内の合理的な架空世界を踏み越えてしまった。
なぜ?
私にはたいそうな分析など出来ないが、一つ強く感じるのは、(動物も含めた)他者の痛みに対するイマジネーションの欠如。
これは近年の少年犯罪すべてに感じることだ。
私は、すべて彼らの資質のせいだとは思わない。
彼らに欠けていると思われるものを、教えてこなかった、あるいは感じさせてこなかった大人たちの責任も大きいと思っている。
【参 考】
★ glmugnshu - グルングムシュー:女子高生母親毒物殺人未遂事件のまとめ
★ 絶望の世界
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