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2005.12.13

映画『ピアニスト』

0512pianist

映画『ピアニスト』

2001年 フランス・オーストリア
原題 : La Pianiste
監督 : ミヒャエル・ハネケ
脚本 : ミヒャエル・ハネケ
原作 : エルフリーデ・イェリネク
音楽 : アルティン・アッシェンバッハ

出演 : イザベル・ユペール , ブノワ・マジメル ,
     アニー・ジラルド

【ストーリー】
 エリカ(イザベル・ユベール)は子供の頃からピアニストになるために、母(アニー・ジラルド)から遊ぶ時間など許されず厳しく教育されていた。
 現在は名門ウィーン国立音楽院のピアノ教授となっているが、母の夢だったコンサートピアニストになることはできず、自分を責めていた。父を精神障害で幼いときに亡くし、今は母と二人きりで暮らしている。

 彼女は、母親の支配から逃れるために、ひそかにポルノ映画館やのぞき部屋に通っている。彼女は今まで一度も異性に触れさせられた事はなく、潔癖性が発展した病的なのぞき趣味と、マゾヒズムの世界に生きてきた。
0512pianist-2 ある日、小さなコンサートでピアノを弾いた青年ワルター(ブノワ・マジメル)が、エリカに恋をする。エリカは彼の強い視線を感じ、いつしか彼女も彼に惹かれていく。そして、レッスンが終わってから跡を追い、彼がアイスホッケーの練習にも打ち込んでいることを知る。ワルターは音楽院の大学院を受験するが、エリカだけが彼の年齢が高すぎると入学に反対する。しかし、他の教授たちが彼を推薦し合格となる。

 その頃、学内のコンサートでの演奏に緊張する女子学生アンナに優しく話しかけるワルターを見て、エリカは無性に苛立つ。エリカはアンナのコートのポケットにガラスの破片を忍び込ませる。彼女は指を切って休学となった。
 その事件を見ていたワルターはエリカが犯人だと気づく。その現場から「血が嫌いなの」といってトイレに立ち去るエリカを、彼は追いかけて愛を告白する。そして、二人は口づけを交わす。しかし、若いワルターの求愛をエリカは応えずに、下半身だけを求める。そのアブノーマルなエリカの姿にワルターは戸惑いながらも、受け入れるしかなかった。

 個人授業でショパンを弾く彼にエリカは長い手紙を渡す。帰宅した彼女を待ち受けていたワルターは母が止めるのも聞かずに彼女の部屋に閉じこもり手紙を読み上げる。そこに書かれていたのは彼女の孤独な叫びと共に、彼女のマゾフィティックな性の秘密が書かれていた。驚くワルターは彼女の家をでていく。
 彼に嫌われたことにエリカは動揺し、アイスホッケーの練習場で「愛している。あなた好みの女になる」と告白をするが、エリカ流の愛し方をワルターは、どうしても受け入れることはできない。
 思い悩んだワルターは在る決断をする。深夜、エリカの家を訪れたワルターは不本意ながら、彼女の求める通りの乱暴な愛を交わす。エリカは初めて官能に酔いしれながら、同時に彼の深い悲しみを感じる。そして、翌日顔を腫らしたエリカがコンサート会場に現れ、彼の来場を待ち続ける…。
 公式HPより

【感 想】
 
映画の中にピアニストがどのように描かれ、ピアノ曲がどのように使われているのか・・・それが観たくて借りたDVDだった。

 しかし、見終わって、混乱と後味の悪い哀しみ が残った。

 その後、境界性人格障害のことを集中して書いている最中に、借りたままになっていたこの映画を再度見る気になった。

 一つは、主人公・エリカがあまりにも強大な母親の影響を受けており(過期待・過干渉・母子一体など)、人格障害で言えば依存型に近いような気がしたこと。
 さらに、映画の中にいくつか理解できないことがあったため、見直す気になったわけだ。

 二度目を見て改めて思ったのは、この映画を見た人の感想を読むと、エリカの「異常な性癖」に戸惑い、観終わって嫌悪感を抱いている人が多い。 しかし、私には母の期待に沿うように自分を殺して生き続け、異性の愛し方が分からないエリカが愛しく、哀れでならなかった。

 単純に恋愛もののパターンにはめれば、この映画はまさに恋愛におけるディスコミュニケーションを描いており、だからこそ切なく美しく哀しい。

 彼女の異常にも思えるのぞき趣味とマゾ志向も、私は彼女の中に性的欲望が健在しているという意味においてはホッとした。
 なぜなら、もし彼女が母親の強い抑圧の中であらゆる欲望を捨てて(殺してしまって)いたら、ピアノという楽器でさまざまな感情表現ができるはずがない し、まさに譜面を正確に弾くだけのピアニストでしかないだろう。
 そういう意味で、彼女の中にはきちんと性への欲望があるということがわかり、彼女が正確に弾くだけの無能なピアニストではないということが納得できた。

 彼女は性に無知で無経験ゆえに、のぞき部屋で性の知識を得ているわけだけど、考えてみたら、彼女の性に関するありようというのは まさに男性的だ。性体験のない男の子が視覚的(ビデオや雑誌など)に知識を得ようとするのと全く同じ行動を彼女はしている。
 それは多分に娘が女になることを嫌悪する」母親の強い抑圧に対して、彼女は無意識の内に「男の性行動」を模していると感じた。

 普通の恋愛映画だと、地味な中年女が、若くて魅力的な青年に一方的に愛を告白され、熱心にアプローチされたら、愛の力で地味→奇麗への変身が目に見えて描かれていくわけだけど、この映画はそうは簡単に変化しない。
 それがこの映画の映画たる所以なんだろう・・・。

 一度観て、どうしても分からなかったのが、剃刀のシーン。
 あまり詳しく書くとネタバレになるので書かないが、私としてはあのシーンはもしかして割礼なのかと思ってしまった。 しかし、あまり痛くなさそうだし・・・やはり分からん・・・。

0512pianist-3 最後のシーン・・・。
 一度目に観た時は混乱の方が大きかったが、二度目に見終わった時は、あのシーンに私は彼女がやっと「自分が自分になった希望を感じた。
 あの物凄い形相・・・あの時、彼女はそれまで抑圧していた自分(と母親)を殺した のだと思う。
 例えホームレスになったとしても、彼女は やっと自分らしく生きていける ・・・そう受け止めると、この映画はそう暗い映画ではなく、改めてすごい映画なんだなぁと思った。

 映画を観終わって、主役のイザベル・ユベールが映画『主婦マリーがしたこと』の主役だったと気がついた。
 『主婦マリーがしたこと』は1943年、堕胎罪でフランス最後の女性のギロチン受刑者としてその生涯を終えた一主婦・マリーを描いた作品で、今でも強烈に心に残っている作品。イザベル・ユベールって女優さんはすごい!

 ついでに・・・ジャニ系の美青年ブノワ・マジメルは年上女優のジュリエット・ビノシュとの間に子供がいる?!  ってちょっとショック・・・。ジュリエット・ビノッシュは良い女優さんだけど、私の好みじゃないから・・・(^_^;)

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 人は洋服を着るようにいくつもの着物をまとって生きている。  「学生」「会社員」「妻」「恋人」……、これらの着物を身にまとい、本当の自分を隠して生きているのだ。  この作品のエリカは40歳。ウィーン国立音楽院のピアノ教授で母と二人暮らしをしている。エリカは常に理知的で厳格であるが、ある秘密を持っていた。  抑圧された彼女は異常な性の嗜好の持ち主だったのだ。  彼女はアダルトビデオを個室で見せるポルノショップに行き、ひと�... [続きを読む]

受信: 2005.12.15 11:33

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