ノンフィクション『スモール・サクリファイス』
スモール・サクリファイス〈上〉虐待の連鎖
スモール・サクリファイス〈下〉ママがわたしを撃った
アン・ルール・著 曽田和子・訳
仕事に集中できない時は、気分転換にDVDを観たり、音楽を聴いたり、仕事と関係ない本を読んでみたりする。
で、ふと読みはじめた『スモール・サクリファイス』・・・気分転換どころか、読み出したら止められなくって、上下巻800ページを一気に読んでしまった。
アメリカで1983年に起こった事件の記録で、日本では2002年に翻訳出版されている。
内 容
オレゴン州の病院のER(緊急治療室)に、銃撃を受けた若い母親が助けを求めにやってくる。車内には瀕死の子供が三人。全米を震撼させた「ダウンズ事件」の始まりだ。
被害者のダイアン・ダウンズは、父親からの性的虐待に晒された女性だった。
不幸な結婚ののち、我が子への虐待、代理母としての出産、乱れた男性遍歴を重ね、凄まじいまでの人生を送っていく。
幼い子供の命を奪ったのは、もしかしたら母ダイアンではないのか?
マスコミを手玉にとり、市民を味方につけてあくまで“悲劇の母親”を演じ続けるダイアン・ダウンズ。
捜査は難航したが、検事ヒューギは執念でダイアンを追いつめる。
そして裁判。当初は陪審員や傍聴人の多くが母ダイアンに同情的だったが、瀕死の重傷から奇跡的に回復した長女クリスティが証言台に立ち、母親を前に証言する。
「ママがわたしを撃った」と。
ついに有罪となったダイアンは収監されるが、事件はそれでは終わらなかった・・・。
嘘に嘘を重ね、多くの矛盾が次々に露になっても、嘘をついているという自覚がなく、本人の中では嘘が真実に摩り替わっている。
矛盾を突かれると激昂し、激しく相手を攻撃する。自分は誰よりも優秀で、いつも正しいと思い込んでいる。
次々と男性を誘惑し、いとも簡単に肉体関係を持ちながら、自分は「真実の愛」だけを求めている女だと、自分を美化し、口先では理想的な愛をとうとうと語る。
「現実の自分」と「理想的な自分」の区別が付かない・・・
欲しい物(男)を手に入れるためには、邪魔者(子供)を消そうとする。
彼女にとって、子供は「ファンジブル」(代替可能)なものでしかない。
「ファンジブル」=一個又は一部が他の同等の一個又は一部と交換あるいは代替することが出来、それによって義務を免れることが出来るような種類、あるいは性質であること。
つまり、彼女は自分の意のままに子供を消しては代わりを作り、数合わせして満足している。
・・・・・・・・読み進むにつれて、もしや、多分・・・と思えてくる。
そう、やはり、彼女は幾つもの性格検査、心理検査の結果、演技性人格障害・自己愛性人格障害・反社会性人格障害と診断される。
おりしも、秋田児童殺害事件の第5回公判の被告人質問で、畠山鈴香被告が父からの暴力を語ったという。
「父から暴力20歳まで」公判で鈴香被告が生い立ち語る
ダイアン被告と鈴香被告・・・生い立ちからして重なる部分が多く在る。
アメリカのシリアル・キラーの多くは、幼時に虐待された経験がある者が多いと言われている。
虐待は他者とのコミュニケーション能力を奪い、性格を歪(いびつ)なものにしてしまう。
幼児虐待の連鎖の果ての殺人・・・
なんか救いようがなく、哀しい。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 映画評論家・町山智浩氏の著書、大人買い(2018.07.26)
- 『ヒッチコック映画術/トリュフォー』:PC不調のおかげで一挙に読み終えた!(2015.05.16)
- 『女といっしょにモスクワへ行きたい』・・少年の夢が詰った忘れられないタイトル。永い時を経てこの詩と再び再会した。(2013.10.14)
- 小説『サクリファイス』:自転車ロードレースを舞台にした青春ドラマでありサスペンスドラマ。ロードレースのルールが分かると同時に、その奥深さがよく分かり、サスペンスとしても面白かった!(2013.09.27)
- 24年目の“こんにちは”と23年目の“さようなら”(2013.06.07)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
秋田連続児童殺害事件。この事件は、鈴香被告の「自供」をはじめ
「誰が何といったか」だけで、刑事裁判を構成してるのが不安です。
もともと「秋田県警は彩香ちゃんは《事故死》で処理していた」のを
忘れてるんじゃないか?畠山鈴香被告が、事故死じゃないと主張して
再捜査の署名運動までしていたのは「殺人者」なら、明らかに矛盾。
もし「物証だけをモトにする」としたら。彩香ちゃんの遺体発見時
(行方不明の翌日、昼)「半身だけが、死後硬直していた」ことと、
行方不明前夜「上流橋の上で、親子連れを目撃した」という証言は、
無関係にしかならない。なぜなら、上半身の死後硬直が起こるのは、
普通なら6時間後。死後硬直は半日(12時間後)で、全身に及び。
死後硬直が解けるのは、2日後(48時間後)からとされるので、
(http://www3.kmu.ac.jp/legalmed/lect/sitai.html)
前日の7時頃目撃された、親子連れが、その後「突き落とした」か、
事故で「落ちた」かしても。半身死後硬直は「夜中に起きる」はずで
翌日の昼頃発見とは約12時間の時差が生じる。これが物証の推論。
物証と矛盾した「自供」に基づく裁判は、多くの冤罪を産んでいる。
しかも当時、噂が先行して《犯人は母親?》という報道のもとでの、
「長時間の取調べで、やっと自供を得た」という、特殊事情もある。
豪憲くんの事件では、別に《犯行時間》の問題もあり、懐疑的です。
投稿: たまり | 2007.10.30 09:39
当初からいろいろの矛盾点が指摘されていましたが、未だ
整合性のある説明がされてないことが多いようですね。
参考;「事件を見に行く 秋田児童殺害事件」
http://210.230.1.139/index.php?%BB%F6%B7%EF%A4%F2%B8%AB%A4%CB%A4%E6%A4%AF%2F200605%BD%A9%C5%C4%BB%F9%C6%B8%BB%A6%B3%B2%BB%F6%B7%EF
公判で明らかにされてくるんでしょうかねぇ。
たまりさんご指摘の
>畠山鈴香被告が、事故死じゃないと主張して再捜査の署名
>運動までしていたのは「殺人者」なら、明らかに矛盾。
この点に関しては、私は逆に彼女ならあり得る行動と感じていました。
母親による子殺し事件で、最初は「子供を殺された悲劇の
母」を演じる例というのは他にも見られますし。
ただ、彼女に反社会性人格障害・演技性人格障害が垣間見え
たからと言って、彼女が犯人だという根拠にはなりませんが。
『スモール・サクリファイス』のダイアンの場合、物証は車
に飛び散った血痕とタオルだけ。子供たちを撃った弾丸や
薬莢も残されてはいたけれど、いまだに凶器そのものは発見
されていません。
そして、有罪の決め手になったのは救命され生き残った9歳
の長女の「ママが撃った」という証言。
1984年に有罪判決が出て、2009年に第1回の仮釈放審査が行
われる予定とのこと。
しかし、ダイアンは今でも無罪を主張。「本当の犯人を見つ
ける」と何度も脱獄を計っているそうです。
鈴香被告の場合は、ダイアンと違って、逮捕後、自供となっ
ていますが、それが冤罪の危険を含んだ強制だったのか、も
しそうだったとしたら、鈴香被告がこれからの公判でそれま
での供述を否定し、冤罪を訴える可能性も出てきます。
真実はどうなのか・・・
公判を見守って行きたいと思います。
投稿: ラブママ | 2007.11.01 12:29
私は、畠山鈴香は非常に《被暗示性が強い》性格と思っています。
「検察の誘導」に簡単にのって「自供を何度も変えた」公算が大。
最近「冤罪事件」が多発していますが、強制的・暴力的取調べで、
無罪を主張することなく服役して。真犯人が別の事件の取調べで、
真実を告白するまで、全く問題にならなかったケースもあります。
「被告が気が弱かった」としか思えないですが。控訴もしてない。
被暗示性が強い人(宗教に妄信するタイプ)も「危険」だと思う。
被暗示性の強い被告の自供など「どうでもいい」と、私は考えます。
問題は、彩香ちゃんの遺体を発見した、消防隊員(消防団員?)が、
TVの番組で「上半身が死後硬直した状態だった」と証言してたこと。
繰り返しますが、これは「死後5〜6時間」と推定される状態です。
「川で流されてた場合、死後硬直が遅れることがある」そうですが。
落としたとされる橋から、漂着した中洲までは、2時間程度の距離。
翌日の正午頃に発見されてますから。流されて死後硬直が遅れても
(死後7〜8時間)死んだのは、翌日の早朝3〜4時頃となるはず。
豪憲くんたちが彩香ちゃんを最後に見たのは、遺体発見前日の夕方。
直後に落とされても、死後硬直が解け始まる48時間の後ではない。
せいぜい20時間前後にしかならないし、事実上その可能性はない。
一方、鈴香被告は、午後7時過ぎに、近所の人に行方不明を告げて、
捜索を開始してる。熱心じゃなかったという話もあるが、当事者で、
衆人環視の中(翌日早朝に某所で)彩香ちゃんを殺害などできない。
「事故死じゃないと署名活動した」のは、あくまでも状況証拠です。
たしかに「やりすぎ」だけど。偽装ともとれるし「物証」じゃない。
母子家庭なのに、子を殺すのは自己矛盾。ネグレクトといわれたが、
実際彩香ちゃんは標準体重。貧しいなりに食べさせていたといえる。
噂とか、誰かが言ったとか、根拠のない風評ばかりで、実態がない。
実際、鈴香被告を《彩香ちゃん事件》と結びつけるのは(二転三転の
自供を除いては)前日の、暗くなった橋での《目撃証言のみ》です。
まぁ都会では。白い車が停まってても、持ち主は特定できない(笑)
それに、証言をつなぎ合わせると、突き落としてすぐ、家に帰って、
「彩香が,帰って来ない」と、隣近所を探しまわった ことになる。
繰り返しますけど「死後硬直」からは第三者を考えざるを得ません。
たぶん警察もそう考え、鈴香被告の実家周辺を調べた、形跡がある。
誰一人として疑う余地がなかった(アリバイがあった)のでしょう。
本人の「自供がある」ので、警察・検察・弁護士も、それにのった。
「遺体」の法医学上の結論など「物証」を詰めてもらいたいですね。
投稿: たまり | 2007.11.01 17:23
元々、鈴香被告が疑われたのは「彩香ちゃんの死」を
「事故死」と認めたくなく。殺人事件だとするために
「豪憲くんを殺した」という。「警察の予断」からです。
「豪憲くん殺害事件」にも、幾つかの疑問があります。
私にとって、まず腑に落ちないのは《殺害時間》です。
学校帰りの豪憲くんが、自宅まで300mの公園前で、
友達親子と別れたのは、25分。鈴香被告が自動車で
家を出たのを隣人に目撃されたのが、5分後の30分。
300mの距離を子供の足で歩いて、何分かかります?
どういう手順で殺して、遺体を包み、車に積み込むか?
これら全てが、たった5分の時間の中で、動いたのか?
「通り魔」だとしても、出会い頭に「絞めた」なんて、
想像できますか?いきなり「刺し殺す」なら分るけど。
更に、上から絞めたとしか説明できない、頬に残った
《索条痕》がある。普通なら、背の高い人が絞めた痕。
背の低い鈴香被告が絞めたら、頬に索条痕はつかない。
この説明のために、警察は、玄関先に豪憲くんを座らせて
上から(殺意を抱いた鈴香被告が)絞めたことにした。
私には無理としか思えません。《ウサギの毛》も疑問。
いつどこで着いた?なぜ「靴だけ」に着いているのか?
靴を履いてウサギがいた彩香ちゃんの部屋に上がった?
また、遺体に付着していた《黒い繊維》の問題もある。
何の繊維か?鈴香被告の持ちものでなかったようです。
状況から《鈴香被告が、死体遺棄した》とは思います。
なぜか「自宅に《豪憲くんの遺体が置かれていた》ので
死体遺棄すれば、彩香ちゃん事件も、殺人事件として
再捜査されると考え、死体を捨てた」なら、辻褄は合う。
「子を亡くした、親の悲しみ」を、身を以て知りながら
「子供の遺体を捨てた」ことを嫌悪して、自供したなら
不安定な自供も「理解できる」ように、思えるのです。
「死体遺棄についての自供」は、割と安定しています。
鈴香被告が出かけたあとから。遺体を運びこんだなら、
時間も、索条痕も、ウサギの毛も、繊維も、説明がつく。
《時間》は、鈴香被告が出てから帰るまでなら余裕だし。
《索条痕》も、豪憲くん殺害犯の「背が高かった」だけ。
《ウサギの毛》も(靴のまま)ウサギがいた彩香ちゃんの
部屋を通って、運び込んだから(靴に「毛」が着いた)。
《黒い繊維》も、犯人が別にいるなら何の問題でもない。
これから先は、たぶん、シナリオライターの領分です(笑)
投稿: たまり | 2007.11.01 19:36
鈴香被告の「自供」はこれから先、覆される可能性もあるし、
「自供」をもって全てを判断するのは危ういと私も思っています。
彩香ちゃん・豪憲くん両事件とも、
>「遺体」の法医学上の結論など「物証」を詰めてもらいたいですね。
裁判によってそれらが解明されること期待しています。
投稿: ラブママ | 2007.11.02 11:03