アカデミー賞映画「ザ・コーヴ」上映とシンポジウム、そしてシーシェパード
2009年度第82回アカデミー賞ドキュメンタリー映画賞『ザ・コーヴ』の国内上映が次々と中止になっている。
遅くなってしまったけど、6月9日(水)に行われた上映会とシンポジウムについて、まとめてみました。
6月下旬に公開予定だった『ザ・コーヴ』の上映が、東京・大阪ともに急きょ中止になったということを知ったのは6月5日だったか6日だったかのネットのニュースだった。
中止の理由は上映反対派の抗議活動 があったためという。
え~? また『靖国』の時と同じことが繰り返されるってわけ?
中止の詳しい経緯を知りたくてネットで調べていて、6月9日(水)に中野ゼロホールで『ザ・コーヴ』上映会とシンポジウムが実施されることを知り、すぐにローソンチケットに申し込みしようと思ったらすでに売り切れ。一応、キャンセル待ちのメール予約を入れた。
で、さらに調べているうちにUStreamで『ザ・コーヴ』1時間半全編を見ることができた(現在は見られなくなってる)
9日の当日はお昼から会議で雨も降っていたので、車で北千住へ。この時点ではキャンセル待ちなのでどうせ行っても入れないだろうとシンポジウムに行くのは諦めていた。
が、会議が終わって夕方、環七を中野方面に走っている時、突然、「ダメもとだい。やはり行くだけ行ってみよう!」と思い直して中野ゼロホールへ。
開場30分前というのに、いやはやすごい人の数。予約の550人に加えてキャンセル待ちが約100人・・・。
一応、キャンセル待ちに並んで待ち続ける。
入場が始まったけど、責任者らしき男性が「申し訳ないけどキャンセル待ちはほとんど入れないと思う」とアナウンス。
思わず「ロビーでいいので、シンポジウムの音声だけでも聞かせてもらえないでしょうか?」とお願いしてみる。私自身はすでにネットで作品は観て来たから。
やがて男性(『創』の篠田博之編集長だった)が「ロビーでよければテレビモニターでご覧下さい(無料で)」と嬉しいご配慮の返事。
キャンセル待ちの人々の大半がロビーのテレビモニターの前で作品を見ることができた。
前置きが長くなったけど・・・
●アカデミー賞映画「ザ・コーヴ」上映とシンポジウム
日時:6月9日(水) 18時20分開場 18時40分開演 21時半終了
映画「ザ・コーヴ」全編上映(90分)の後、シンポジウム(約80分)。
会場: なかのゼロ・小ホール(定員550名)
参加費:1000円
シンポジウム登壇者
森 達也 (作家、監督。オウムを撮った映画「A」で知られる)
綿井健陽 (イラク戦争報道で知られる映像ジャーナリスト)
坂野正人 (カメラマン・ディレクター。イルカの問題に詳しい)
鈴木邦男 (一水会顧問。新右翼の論客)
野中章弘 (ジャーナリスト/アジアプレス)
司会:篠田博之 (『創』編集長)
加藤武史(映画「ザ・コーヴ」配給会社 株式会社アンプラグド 代表取締役)
サプライズゲスト
リック・オバリー(映画「ザ・コーヴ」出演者・活動家・海洋哺乳動物専門家)
シンポジウム内容は下記動画で観ることができます。
映画「ザ・コーヴ」~上映中止へ抗議のシンポジウム・前編(26分)
映画「ザ・コーヴ」~上映中止反対シンポジウム(後編)
配給会社の加藤社長より経過説明。
たまたま来日中だった「ザ・コーヴ」出演者のリック・オリバー氏がサプライズゲストとして登場。
その後、各パネリストよりそれぞれの立場からの意見が述べられた。
(内容は上記動画をごらん下さい)
共通しているのは、“どんな表現であれ、作品を見た上で賛否両論で議論を交わすことが大切で、上映中止というのは、議論をする機会そのものもなくしてしまうことになる”ということ。
私も全くその通りだと思う。
●映画「ザ・コーヴ」についての個人的感想
▽制作費をふんだんに使った作品
隠しカメラの装置や出演者、スタッフにお金をかけており、海やイルカの映像などもキレイで、ドキュメントといえどもハリウッド的なエンターテイメント作品になっている。
▽内容に関して
個人的感想として、ドキュメント作品としては上質な作品とは言い難いと感じた。
確かに、日本人でありながら知らなかった事実・・・イルカ追い込み漁の実態、他の水産物に比べて水銀含有量の多いイルカ肉を学校給食に出そうとしたこと、一部、鯨肉としてイルカが売られていること・・・などが取り上げられている。
公に知られていない事実を暴くのもドキュメンタリーの使命の一つだと思う。
その意味では、この作品の中に問題提起はきちんと込められている。
ただ、その一つ一つに対して、単純素朴にに「へぇっ! そうだったんだ!」と納得できるかというと、なにかが引っかかって素直に頷けない。
※素直に頷けない理由※
映画の最初から、「命を狙われている」などと被害者意識丸出しで、漁民たちをまるで“マフィア”とか“殺し屋”のように例えている(ハリウッド的なサスペンスで観客を引っ張ろうという意図が見えて軽薄)
→イルカ追い込み漁は国から認可された漁であり漁獲数も国によって定められている。また、イルカ漁は日本だけでなく、他国でも行われている・・・
→“追い込み漁”という漁法はイルカに対してだけでなく、沖縄をはじめ日本の各地で伝統的漁法として行われている。
→イルカだけでなく、鯨やマグロや他の魚類に関しても“水銀”の問題は存在しており、そのことが隠蔽されているわけではない(厚生労働省「魚介類に含まれる水銀について」)
→盗撮という手法で、一方的にイルカ漁を悪と決め付け撮影している。
上記より、この映画は別からの視点を排除しており、悪と善の二元論的視点のみで、一方的な主張、情報しかない。
イルカは可愛い、頭がいい、ストレスで自殺する・・・だからイルカを殺すなという主人公の元イルカ調教師 リック・オバリー氏の個人的感情は分かる。
→しかし、他国の食文化や歴史に対しての敬意や認識が浅さすぎる。
個人的感情だけで自国の文化や歴史を一方的に批判されるのは、感情的に不快。
→ネット上には(例えばYouTubeとか)、牛、豚、鶏、その他様々な動物たちの屠殺映像がUPされている。
家畜といわれる動物たちはどんな殺され方をしても当たり前だが、可愛くて頭のいいイルカは食べてはいけない、というのだろうか?
作品の中に、その点についての説得力がない。
シーシェパードとの関連を否定しているが、明らかにシーシェパードは関係している。
→Sea Shepherd シーシェパード日本公式サイト
Sea Shepherd シーシェパード イルカの保護
2003年、和歌山県太地町でキャンペーンを開始、
残酷なイルカの虐殺映像を世界に発信した。(同サイトより)
Sea Shepherd シーシェパード メディア ニュースリリース
2004年 9月21日
シーシェパードは日本の太地で毎年、行われる小型クジラとイルカ虐殺の撮影をした最も出来のよい作品に一万ドル(約110万円)の賞金を提示しています。
キャプテン ポール ワトソン(代表)はこの変わったコンテストの理由を、 賞金を提示する時に説明をしました。
(中略)
この賞に応募するにあたって撮影映像はシーシェパード宛に送られなくてはなりません。
シーシェパードは最高の質と写実的なドキュメンタリーに基づいた映像に対して一万ドルを支払います。またそれ以外にも、ビデオ撮影一分につき500ドル(約5万5千円)、または写真一枚につき250ドルを支払います。
これらの撮影は2004年10月1日から、2005年3月31日までに撮られたものでなくてはなりません。(略)
そして、それらのシーシェパードの映像が映画の中にも使われている。
→上記のことから、私はこの映画はシーシェパードのプロパガンダ映画としての要素が非常に濃い作品だと感じています。
▽個人的意見
子供の頃、学校給食に牛や豚肉の代わりに鯨肉が使われていた。が、もともとすごい偏食だった私は、鯨肉を自分から食べた記憶がない。
これまで7回ほど訪れた小笠原諸島・父島ではほぼ毎回、海に鯨の姿を見ることができた。
さらに、観光ボートに乗った時、野生のイルカたちが群れで伴走してくれるシーンに何度か遭遇した。
父島では亀の肉はあったが(名物)、鯨やイルカの肉を見たことがない。
どっちにしても、これから先、私は鯨やイルカの肉を食べることはないと思う。
鯨やイルカだけでなく、馬や猪や兎や・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
私はそうだが、だからといって自分と違う考えの人を一方的に批判・非難はできない。
人が生きるためには他の命の恵みをいただかなければならない。
それは動物だけでなく、植物だって同じ。
その動物の命をいただくことが、今、本当に必要なのか?
そこのところは、きちんと考えなくてはいけないと思う。
その意味では、「ザ・コーヴ」は考えるきっかけを与えてくれたのかもしれない。
そして、反対も賛成も、まずこの作品を見ないことには論ずることはできない。
目も耳も塞ごうとするは間違っている・・・それだけはハッキリしている。
゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。
【日本での公開経緯】
2009年第22回東京国際映画祭:太地町関係者から抗議があったため公開は一晩のみ。
2010年3月6日立教大学上映会:地元の漁協などの反発を受け中止。
2010年5月19日『ザ・コーヴ』上映決定。
6月26日(土)より東京・大阪など全国26館にて順次公開予定。
2010年6月3・4日東京都内2カ所、大阪1カ所:抗議や抗議活動予告等があり6月26日
からの公開予定を中止。作品を「反日的」と糾弾する団体が「抗議活
動」を予告したため、近隣への迷惑を考え「自粛」するという。
2010年6月08日上映中止に対する反対声明
雑誌「創」編集部を中心に、55人のジャーナリスト・文化人が「ザ・コーヴ」
上映中止に関する反対声明。
〔緊急アピール〕映画「ザ・コーヴ」上映中止に反対する!
http://www.tsukuru.co.jp/oppose.pdf
2010年6月9日東京「なかのZERO小ホール」にてメディア批評誌『創』主催で上映会&シンポジウム
2010年6月15日仙台、山形、青森でも上映の見送りが決定。
2010年6月15日日本ペンクラブ(阿刀田高会長)が「言論表現の自由にとって残念な
事態がじわじわと広がっている。映画館・大学を含む公的施設は圧力に
屈することなく上映機会を提供できるよう努力を重ねてほしい」と上映
中止を憂慮する緊急声明を発表。
2010年6月17日明治大学上映会&ティーチ・イン(リック・オバリー氏)中止。
2010年6月18日にニコニコ動画「ザ・コーヴ」全編が無料配信されることになり、
6月21日には鈴木邦男、藤江ちはる、ひろゆきが出演する「ザ・コーヴ」に関する討論番組が配信されることが発表された。
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