驚嘆!映画『大人の見る繪本 生まれてはみたけれど』
『大人の見る繪本 生まれてはみたけれど』1932年 91分 白黒サイレント
製作:松竹蒲田撮影所
監督:小津安二郎
原案:ゼームス槇(小津安二郎)
脚本:伏見晃
出演
斎藤達雄・菅原秀雄・突貫小僧(青木富夫)・吉川満子
麻布から郊外へ引っ越してきたサラリーマン一家。二人の腕白兄弟・良一と啓二(菅原秀雄と突貫小僧)は、早速近所の悪ガキグループと喧嘩、揚句、学校をずる休みしてお父さんから大目玉を食らう。
そのうち悪ガキ仲間と友達になり一緒に遊ぶようになる。その中にはお父さんの勤めている会社の重役・岩崎の子供・太郎もいる。
ある日、みんなで「うちの父ちゃんが一番えらい」と自慢する話が出る。良一も啓二も家では厳格な自分の父親が一番偉いと信じて疑わなかった。
ところが、ある日、岩崎の家で見せてもらった16ミリ映画の中で、お父ちゃんは岩崎の父ちゃんの前でお世辞を言い、動物のまねまでしてご機嫌伺いをしている。
帰宅した良一はお父ちゃんに抗議する。
(セリフはすべてスポークンタイトル=黒地に白文字のセリフ字幕)
「お父ちゃんはいつも偉くなれと言うけれど全然偉くないじゃないか!
なんで太郎ちゃんのお父さんにペコペコ頭下げてばっかりなんだよ!!」
「太郎ちゃんのお父さんは重役なんだ」
「お父ちゃんも重役になればいいじゃないか!なんでなれないんだよ!」
「太郎ちゃんの家はお金持ちだから仕方ないんだよ」
「お金持ちが偉いの?」
「お金持ちじゃなくても偉い人はいるよ」
「お父ちゃんはどっちなの?」
お父ちゃんはその質問に答えられなくて、ついに怒鳴ってしまう。
翌朝、お父ちゃんがペコペコしてもらったお金でご飯なんか食べたくない、と兄弟はハンガーストライキに突入。
そんな二人にお父ちゃんは・・・。そして兄弟は・・・。
チャプター
1 お引越し
2 早弁兄弟
3 不登校兄弟
4 父から叱られる兄弟
5 教室にて
6 亀吉をやっつけろ!
7 映画会の人気者は?
8 お父ちゃんの意気地なし!
9 父親もつらいよ
10 大きくなったら何になる?
前から気になっていたこのタイトル、やっと見ました。
そして、驚愕!
最初はDVDの音声が消音になっているのか? と慌てて音声調節してしまった。
リュミエール兄弟作品から始まって、サイレント映画はそれなりに見てきたけれど、数分の作品ならともかく、ちょっと長い作品には音楽がついていた・・・ような気がする。
ところが、この作品は音楽も一切なしの完全無音。
またキャプチャータイトル(場面説明字幕)はほとんどなく、スポークンタイトルも極力抑えられている。
無音の画面を見始めて、あっという間にこの映画の世界に取り込まれた。
子供世界がユーモアあふれるタッチで生き生きと描かれている。
特に、啓二役の突貫小僧の茶目っ気あふれる悪ガキぶりは天才的!
また、厳格そうに見えたお父さんが16ミリの中で見せる別の顔に抱腹絶倒。そして、ハラハラ・・・あんなお父ちゃんを見てしまいショックを受けた子供たちの気持ちも分かる。
子供たちから抗議されるお父ちゃん・・・。子供の気持ちも分かるけど、お父ちゃんも辛いよなぁ。
こうして子供たちも社会の仕組みを知っていき、少しづつ大人になっていく・・・。
どんな時代にあっても、子供たちが成長する上で一度は抱く大人社会への疑問や反抗心。どっちの気持ちも分かるなぁと思いつつ、子供たちのラストシーンにほっとする私がいた。
完全無音なのに、いろんな声や音が聞こえてくるこの映画。
小津さんは、やはりすごいです!
この映画は今では世界各国の映画教育機関で「戦艦ポチョムキン」に匹敵するサイレント映画の代表作として扱われているそう。頷けます。
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