ノーマン・コーウィンのラジオドラマ『この虫十万弗』:ラジオならではのシナリオ
古い資料の中にもう一冊、興味を引かれた本が。
1954年発行の「アメリカ・ラジオ・ドラマ傑作集」。
この冒頭に収録されているノーマン・コーウィンのラジオドラマシナリオ『この虫十万弗』は以前から一度読んでみたい作品だった。
で、面白くて一気に読んでしまった。
少年の吹くハーモニカの曲に合わせて踊る芋虫カーリーに目をつけた興行師が、エンターテイナーとして芋虫カーリーを売り出す。とたちまち、カーリーは全米のみならず世界中の話題になり、やがてウォルト・ディズニーと出演料「十万弗」で契約するほどになる。
ところが、その契約がまとまった直後、カーリーの姿が見えなくなる・・・。
世界中でカーリーの捜索が始まった。
芋虫カーリーとはいったい何のメタファーなんだろうか・・・そんなことを考えながらシナリオを読み進め、そして意外なラスト。なぜかとても美しい映像が頭の中に焼き付けられた。
芋虫カーリーの話を通して、人生にとって本当に大切なものは何かをじんわりと教えてくれる。
1940年、コロンビア実験劇場で放送されたこのラジオドラマを聴いた批評家たちは、ラジオが初めて芸術の域に達したと絶賛。詩人C.サンドバーグも感激して、生まれて初めてのファンレターをコーウィンに送ったのだそう。
コーウィンがラジオの神様といわれる所以だ。
『この虫十万弗』は1944年にケイリー・グラント主演で『此の虫十万弗』(監督:アレクサンダー・ホール、脚色:ルイス・メルツァー、オスカー・ソウル)のタイトルで映画化されている。
以下、「アメリカ・ラジオ・ドラマ傑作集」の解説によると・・・
映画はラジオほど成功しなかった。
映画では、芋虫の踊るところが映せないために、ボール紙の箱の中に芋虫がいることにしてその箱だけを見せていたが、ラジオでは聴取者の心の中のイメージに訴えることによって、自由に、どのようにでも芋虫を踊らせることが出来た。
視覚を奪われた世界においてしか描くことの出来ないラジオの最も根本的な弱点を、この作品では逆用して、これを利用し、これを武器として、見事に成功した作品である。
普遍的なテーマを持った作品は、時代関係なく心に響く何かがある。
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