DVD『ポン・ジュノ アーリーワークス』
前からどうしても見たかった『ポン・ジュノ アーリーワークス』。
amazonマーケットプレイスで定価より少しだけ安かったので、思い切って購入。
『ほえる犬は噛まない』 (2000)、『殺人の追憶』 (2003)、『グエムル-漢江の怪物-』 (2006)、『母なる証明』 (2009)などで今や韓国を代表する監督の一人ボン・ジュノ監督。
監督デビュー前のショート作品3本と6人のインタビュー。
『支離滅裂』 (1994) 31分
韓国映画アカデミーの卒業制作作品。
三つのエピソードとエピローグの四部構成。
▼エピソード1: ゴキブリ
神妙な顔で本を読んでいる大学教授。読んでいるのは実はエロ雑誌。講義中、教授部屋に忘れたテキストを取ってくるよう女子学生に頼む。が、が、机の上に出しっ放しのエロ雑誌のことを思い出した! 女子学生に見られては大変。先に部屋に戻ってエロ雑誌を隠そうと必死で走る教授。しか~し、女子学生に先を越されてしまった。あわや・・・の瞬間、手元にあった本を投げる。宙を飛ぶ本。上手くエロ雑誌の上に着地、エロは隠された! 何があったのかと驚く女子学生に「つ、机の上に、ゴキブリが・・・」
▼エピソード2: 路地の外で
早朝、大きな家の門の前でジョギング姿のおじさんが新聞配達の勤労青年に声をかける。「君、大変だね、この牛乳を飲みなさい」と。走り去る親切なおじさんに感謝して牛乳を飲む青年。その時、その家の奥さんが門から出てきて、牛乳泥棒となじられ、新聞を解約すると怒鳴られる。ジョギング姿のおじさんは実は毎朝ジョギングしながら他人の門の前に置かれた牛乳を盗み飲みする常習犯の新聞論説委員。
理不尽な仕打ちに頭にきながらも新聞配達を続ける青年。曲がりくねった迷路のような路地を走っていると何度も何度も例の嘘つきおじさんと遭遇。そのたびに必死で新聞青年から逃げる新聞論説委員・・・。
▼エピソード3:苦痛の夜
後輩と飲んで酔っぱらってしまうエリート検事。タクシーが捕まらずバスに乗ったはいいが寝込んでしまい、慌てて降りたものの場所が分からず迷子状態。突然、便意をもよおしトイレを探すが、トイレがないっ! 焦って公園の建物の陰にしゃがみ込んで・・・とそこを管理人のおじさんに見つかり怒られる。管理人のおじさんから「地下室でやれ! 出したものは新聞紙でくるんで自分で始末しろ!」といわれ、地下室に追いやられる。ムッとなったエリート検事は地下室にある電気炊飯器に目が留まる。用を足し地下室から出てきたエリート検事はなんともスッキリした顔。ラストにクローズアップになる電気炊飯器の意味とは・・・。
▼エピローグ:TVの座談会番組
エピソード1~3で登場した大学教授、新聞論説委員、エリート検事が現代韓国の社会問題=性風俗の乱れ(エロ雑誌の横行など)や倫理観、道徳観の乱れ(万引き、立ちションなどへの非難)をしかつめらしい顔で痛烈に批判している。
一方、女子大生も新聞青年も管理人のおじさんも、TVの座談会番組の画面をあとちょっとで見そうで・・・結局見ないまま終わり・・・。
いやはや、どのエピソードもユーモアと皮肉に満ちていて面白い。
権力者側にいる人間と一般庶民を対比しつつ、綺麗なお題目を並べ立てる権力者たちの私生活での愚行を浮かび上がらせることで、彼らの欺瞞性をユーモアに包んで描いている。
『フレームの中の記憶たち』 (1994) 5分
韓国映画アカデミーに入学してすぐの課題作品。
課題:尺は5分、5ショットで作ること。
少年が学校から帰ってくる。門の中に空の犬小屋がある。
犬の名前(パンウル)を呼ぶ少年。
(カメラは門の前に固定のまま)
犬の鳴き声が大きく聞こえてくる。
まるで一篇の詩のような作品。
たった5分、しかも5カットのみで、犬を愛し待ち続ける少年の心がひしひしと伝わってくる。
ポン・ジュノ監督の少年時代の記憶を作品にしたのだそう。
大学時代に、学校の枠を超えた映画サークルの仲間たちと作った作品。
エリートサラリーマンが、ある日、駐車場で、一本のちぎれた指を拾った。なぜか愛着がわいて、常に持ち歩く。その指で電話のプッシュボタンを押したり、パソコンのキーボードを叩いたり、ギターを弾いたりといろいろ使ってみる。やがてちぎれた指が落ちていた理由が分かる。どうやら犯罪がらみで切り取られたよう。しかし、サラリーマンはそんなことにも無関心で、最後には指に飽きてポイっと犬の前に投げ捨ててしまう・・・。
ソン・ガンホ主演の『大統領の理髪師』(2004監督:イム・チャンサン)を見た後に知ったんだけど、韓国のヒエラルキーでは肉体労働者よりもホワイトカラーのほうが上。さらに肉体労働者の中でも理髪師は地位が低かったそう。儒教思想が日本よりも強く残っている国なので、職業によるヒエラルキー意識も日本よりは強いのかもしれない。
そんな国民意識を背景にした作品で、庶民の憧れである高級マンションに住むホワイトカラーの行動を通して、エリートの異常性をブラックユーモアで描いている。
冒頭から主役のエリートの異常性を突きつけてくれる。な、なんと金魚鉢の金魚に・・・。
また、どこに行くにも車で移動している主人公が、車が故障したために歩いてマンションまで帰る羽目に。庶民を見下ろすように聳え立つ高級マンション群に向かって歩き始めたはいいが、いつの間にか猥雑とした市場に迷い込み、迷路のような細い道をひたすら歩く主人公・・・。
そんなふうにエリートサラリーマンと庶民生活との対比もきっちりと映像で描かれている。
ショート作品3本を見て、デビュー前から光る才能の持ち主であったことがよく分かった。
インタビュー 全98分






抜 粋
ポン・ジュノ監督インタビュー
いくつも盛り込まれています。
※もともと広告デザイナーだったヒッチコックは「脚本と、それに基づく絵コンテが出来上がれば、もうそれで私の映画は撮る前にすでに完成している」といった。
ポン・ジュノ監督は幼い頃から絵を描くのが好きで、漫画家になりたいと思っていた頃もあったそうだ。
黒澤明監督もはじめは画家になることを志していた。
天才と言われる監督たちは、イメージ力とストーリーテリング力、この二つを生まれながらに持っているのでしょうね。
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