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2013.05.04

映画オリジナル版『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』とリメイク版『ドラゴン・タトゥーの女』(D・フィンチャー)とを比べてみる

Doragontattoo5

『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』

2009年 スウェーデン

監督:ニールス・アルデン・オプレヴ
製作:ソロン・スターモス
原作:スティーグ・ラーソン
    『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』
脚本:ニコライ・アーセル、ラスムス・ハイスタバーグ

出演:ミカエル・ニクヴィスト、ノオミ・ラパス

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『 ドラゴン・タトゥーの女』

2011年 アメリカ

監督:デヴィッド・フィンチャー
製作:ソロン・スターモス、スコット・ルーディン、
    オーレ・センドベリ、セアン・チャフィン
製作総指揮:スティーヴン・ザイリアン、
        ミカエケル・ヴァレン、
             アンニ・ファウルビエ・フェルナンデス

原作:スティーグ・ラーソン
       『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』
脚本:スティーヴン・ザイリアン

出演:ダニエル・クレイグ、ルーニー・マーラ

【メインのストーリーラインはオリジナル版&リメイク版とも同じ】


 社会派の雑誌「ミレニアム」の発行責任者でジャーナリストのミカエル・ブルムクヴィストは、大物実業家ヴェンネルストレムの違法行為を暴露したが、逆に名誉棄損で敗訴、有罪判決を受ける。
 そんなミカエルに、大企業ヴァンゲル・グループの元会長ヘンリック・ヴァンゲルから仕事の依頼が舞い込む。
 話を聞くため、ストックホルムよりさらに北の町ヘーデスタの沖合に浮かぶ、本土とは橋1本で繋がる孤島ヘーデビーへと向かうミカエル。

 ヘンリックからの依頼内容は、40年前、我が子のように可愛いがっていた16歳の姪ハリエットが忽然と姿を消した迷宮入り事件を改めて調査して欲しいというものだった。

 依頼を請け、ヘーデビー島のヴァンゲル一族所有の小屋に移り住み、そこで調査を開始するミカエル。
 ハリエット失踪事件に関する膨大な資料を調べる一方、ヴァンゲル一族のいわくありげな人々の中に分け入っていく。
 だが謎は深まるばかりで、助手が必要と感じた彼は、女性調査員リスベット・サランデルの存在を知り、彼女に協力を求める。

 リサーチ会社でミカエルのリサーチを担当していたリスベットは、ミカエルのパソコンに入り込んだ際、名誉棄損で敗訴したヴェンネルストレムについての資料を全て読み、ミカエルはハメられただけで無実であると確信していた。
 リスベットは、ミカエル敗訴の判決が出た後も彼のPCのハッキングを続けており、ハリエット失踪事件の調査を手伝うことになる。

 リスベットは、優れた映像記憶能力を持つ天才ハッカーだった。
 精神状態不安定という烙印を押され、後見人の保護観察下に置かれてきた彼女は、その頃、新任後見人の度重なる性的虐待に対し、想像を絶するような報復を果たしていた。

 鼻ピアスに、髪を逆立てた過激なパンクファッションで、首にはスズメバチ、背中にはドラゴンのタトゥーを入れて、まるで完全武装したように堅い殻に閉じこもった孤独なリスベット。
 そんなリスベットだが、調査が進むうちにミカエルと心が通い合うようになる。

 ハリエットが日記に残した電話番号の謎・・・生前の彼女を写した最後の写真・・・二人は事件の真相に迫っていき、信じ難いほどにおぞましい事実が明らかになっていく・・・。


【コメント】

オリジナル版『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』
 先にこちらを観た。
 主演のミカエル・ニクヴィストもノオミ・ラパスも初めて見る俳優だけど、冒頭から物語に引き込まれ、あっという間に見終わった感じで、とても良く出来た作品だと思う。

 難をいえば、スウェーデンの人名って結構長くて、字幕で読み切れなかったり(^_^;)
 また、司法制度や後見人制度というのが日本と違っているようで、最初は戸惑いも。

 キャスティングに関しては、オリジナル版のミカエルはちょっと地味目、リスベットはいかにも戦闘的。
 リメイク版の映画予告で見た
ダニエル・クレイグとルーニー・マーラはセクシー&スタイリッシュでいかにもハリウッド的なキャスティング。 


リメイク版『 ドラゴン・タトゥーの女』

 『セブン』でもそうだったけど、オープニング・タイトル・シークエンスは、さすがデビッド・フィンチャー、お見事!
 これから始まる物語への期待とドキドキ感をいやが上にも掻き立ててくれます。

 デビッド・フィンチャー監督自身の音声解説によると、スウェーデンを車で走っている時にレッドツェッペリンの『移民の歌』が流れてきて、すぐにこの曲を女性のボーカルで使いたいと思ったと。
 「氷と雪の地からやってきた」の歌詞がフィンチャーのイメージするリスベットそのものだったそうです

 またCGは
リスベットの悪夢のイメージで作ってもらったとのことで、音・ビジュアルともにリスベットで始まり、リスベットで終わった映画でした。

 全体の映像は、スウェーデンのオリジナル版に比べて、明暗のハッキリした独特の映像美があり、特に雪のシーンはとても美しかった。
 『セブン』と同じように銀残し処理されている?

 ストーリーは先にオリジナル版を見ていたのでだいたいのあらすじは分かっていたけど、もし未見のままいきなりこの作品を観たら、一度で理解しえたかどうか自信ない・・・。

 全体の構成をみると、
オリジナル版153分に対してこのリメイク版は158分と5分ほど長いけれど、各アクトのポイントポイントは、オリジナル版とほぼ重なっている。

 フィンチャー監督の音声解説では「この原作を3幕構成に出来ず、5幕構成にした。テレビの警察ドラマによく似ている」と語っている。



・・・・・以下ネタバレ含む・・・・・

オリジナル版とリメイク版の相違点
searchミカエルの娘
オリジナル版:不明瞭(妹の家にいた幼い娘は妹の娘なのか、彼の娘なのか不明)

リメイク版:思春期の娘

searchミカエルとハリエット
オリジナル版:ミカエルは幼い頃、ハリエットに会っている。
         技師をしていた父がヴァンゲル家に雇われ、コテージに住んでいた。
         母とミカエルは休みの度に父に会いにコテージを訪れており、その時、
         ハリエットが遊んでくれた記憶がある。

リメイク版:
ハリエットとの繋がりは全くない。

searchハリエットが残した言葉の意味
    (電話番号でなく、聖書の言葉を示すと気がつく)
オリジナル版:リスベットが気がつく。
         ミカエルについての調査終了後もミカエルに関心を持っており、彼の
         パソコンに侵入してハリエットが書き残した番号と聖書の関係に気づく。
         ミカエルのパソコンにメールを送ってヒントを与える。

リメイク版:
休暇で突然、島のミカエルに会いに来る娘。娘は宗教に興味を持っており、
        その娘の一言で聖書との関連に気づく。

search共同経営者エリカとミカエルの関係
オリジナル版:リスベットの調査写真で、ミカエルとエリカが特別な関係にあると匂わ
        せる。

リメイク版:
ミカエルとエリカがベッドを共にするシーンが数回ある。

searchリスベットの父
オリジナル版:車の中の父親にガソリンをかけて火をつけ、炎上させたというリスベット
         の少女時代の回想シーンが何度か入っている。

リメイク版:
ラスト前に自ら父親のことをミカエルに語る。父に火をつけて全身の80%に
       火傷を負わせたと。

searchリスベットの母
オリジナル版:ラスト前、精神を病んだ母親に面会に行く。母親は「酷い父親を選んだ
        わ」とリスベットに謝り、リスベットは「ママは悪くない」。

リメイク版:
母親は映像には出てこない。

search最初の後見人・ホルガー
オリジナル版:後見人委員会からの電話でホルガーが脳卒中で倒れたこと、新しい
         後見人が決まったことを聞く。

リメイク版:
脳卒中で倒れているホルガーを発見。何度か見舞いに行く。

searchリスベットにとってのミカエル
オリジナル版:母に「男友達は?」と聞かれて「一人いる」とリスベット。しかし、「恋は
         しない。ママだったらその理由は分かるでしょ」と言葉少なに母と手を
         握り合う。

リメイク版:
最初の後見人ホルガーを見舞いに行き、チェスをしながら「友達が出来た。
       とても幸せよ」とチェスのコマを進める。

searchハリエット失踪事件の真実
オリジナル版:ハリエットは14才の時に父に犯され、続いて兄も加わり、二人から性的
         虐待を受けていた。
         16才のある日、酔った父はそれまでに殺してきた女たちのことをハリエッ
         トに話し、彼女を犯して殺そうとした。外に逃げ出したハリエットは父を湖
         に突き落として溺死させた。その現場を兄に見られてしまう。

         それから間もなく、ハリエットは従姉妹のアニタの協力で身一つで島を抜
         け出し、オーストラリアへ。

リメイク版:
父と兄に性的虐待を受けていたのはオリジナルと同じ。

       アニタの協力で島を抜け出たハリエットは、結婚したアニタのパスポートを
       使いアニタの夫と夫婦の振りをしてロンドンに逃げ延びた。

searchハリエット失踪事件解決後
オリジナル版:ミカエルは三ヶ月収監される。その間にリスベットが面会に来て、ヴェン
         ネルストレムの悪事を暴く新たな資料をミカエルに渡して去っていく。
         ミカエルはその資料からヴェンネルストレムの新事実を公表して、ヴェン
         ネルストレムを追い詰める。ヴェンネルストレムは自殺したと報じられる。


リメイク版:
ミカエルは収監されず、リスベットのハッキングでヴェンネルストレムの悪事
       の証拠を掴み、公表。テレビでヴェンネルストレムは闇の組織によって暗殺
       されたと報じられる。

searchヴェンネルストレムの闇資産
オリジナル版:ブロンドの謎の女がケイマン諸島の銀行から闇資産を総て引き出したと
         報じられる。防犯カメラの謎の女を見て、ミカエルはそれがリスベットだと
         気がつく。


リメイク版:
リスベットはミカエルから株投資の名目でお金を借りて、その金でリッチな
       ブロンド美女に変身。ケイマン諸島の闇口座からお金を引き出し、足がつか
       ないようにマネーロンダリングして自分の口座に金を振り込ませる。その手
       口が映像で描かれる。
       リスベットは何事もなかったようにミカエルに借りた金を返しに行く。
                (ミカエルは気がついていない)

searchオールラスト
オリジナル版:ミカエルは名誉回復。ヴェンネルストレムの悪事を暴いた記者として
                    賞賛され、共同経営者として『ミレニアム』に戻る。
         リスベットは陽光溢れるリゾート地にブロンド美女のいでたちで降り
                    立ち去っていく。


リメイク版:
特別誂えの皮のライダースーツをミカエルにプレゼントするために彼の住ま
       いへ。しかし、「娘に会う」と言っていたミカエルが愛人のエリカと出かける姿
       を目撃してしまい、ライダースーツをゴミ箱に放り込み、一人バイクで去って
       いく。

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以上が、オリジナル版とリメイク版の相違点ですが、ところがところが、2012年2月3日にオリジナル版の
『ドラゴン・タトゥーの女 ミレニアム<完全版>』
というのが発売されています。
これはオリジナル版153分でカットされたシーンが復活して180分のバージョンに。

amazonの内容紹介では、以下のカットされたシーンが完全版で復活。


【代表的な復活シーン】


●主人公のミカエルと、雑誌「ミレニアム」の共同責任者であるエリカとの不倫に関するセリフや密会シーン。
●主人公のリスベットが唯一心を許した、彼女の元後見人の病室に実は見舞いに行っていたシーン。
●主人公のリスベットが、新しい後見人に初めて会う(セクハラ質問の)シーンがやや長い。
●後に経済界の大物(ヴェンネルストレム)側に、(スパイとして)裏切った事が発覚する「ミレニアム」のスタッフ・ヤンネが、裏切りの誘いを受けるシーン。
●単身ヘーデビー島で調査をしていたミカエルのもとに、実は一度エリカが逢いに来ていたシーン。
※この時の一連のシーンの中で、今回の事件の依頼者であるヘンリック・ヴァンゲルが、今後「ミレニアム」のスポンサーになる事が描かれている。
●ミカエルをスパイしている「ミレニアム」スタッフ・ヤンネの怪しいメールにより、別のスタッフが疑い始めるシーン。
●リスベットが、後見人への復讐に使う刺青の機械を購入するシーン。
●ミカエルとリスベットが、警察署で情報入手するシーンが、実はテレビ番組のリポーターを装い偽って取材をしていたというセリフ。
●ヤンネの行動を怪しいとにらんだ「ミレニアム」スタッフが、上司のエリカに報告するシーン。
●スパイしていた「ミレニアム」スタッフ・ヤンネが、エリカにクビにされるシーン。
●ミカエルのえん罪が証明されたのち、リスベットが姿をくらます前に実はミカエルに・・・


●ピンク
の部分がオリジナル版になくてリメイク版にあったシーンだけど、もともとはオリジナル版にあってカットされたエピソードをリメイク版は上手く入れていたよう。

この後に見た、『ミレニアム2』と『ミレニアム3』では、スタッフが一人減ってる?! と思っていたけど、完全版ではスタッフのヤンネが、ミカエルが告発した大物実業家ヴェンネルストレム側のスパイだということが発覚してクビにされていたということで納得。



【原作者:スティーグ・ラーソン STIEG LARSSON】
 1954年スウェーデン北部生まれ。
 スウェーデン通信でグラフィック・デザイナーとして20年間働き、英国の反ファシズムの雑誌『サーチライト』の編集に長く携わる。
 1995年、人道主義的な政治雑誌『EXPO』を創刊し、やがて編集長を務めた。
 日に60本もタバコを吸うヘビースモーカーで、仕事中毒でもあった。
 パートナーであるエヴァ・ガブリエルソンとともに2002年から〈ミレニアム・シリーズ〉の執筆に取りかかり、2004年のはじめに3冊の出版契約を結ぶ。
 2005年、第1部『ドラゴン・タトゥーの女』が発売されるや、たちまちベストセラーの第1位になり、三部作合計で破格の部数を記録、社会現象を巻き起こした。
 しかし、筆者のスティーグはその大成功を見ることなく、2004年11月、心筋梗塞で死去した。享年50才。

 スティーグは正義感に溢れたジャーナリストで、フェミニストをサポート。
 一方、心身共に全てをかけてきた雑誌『EXPO』の活動で、スウェーデンの極右団体から脅迫を受け、命の危険を感じながらも、それでも活動をやめなかった。
 しかしその脅迫を受けた事もあり、「妻」や「子ども」が出来たら、自分の大切な人の命も危険に晒してしまうという想いから、32年間共に生活するエヴァとは結婚というカタチは取らなかったという。

 ミレニアム三部作を貫くのは、理想を守るために闘う必要性、屈服することや、金のために自分を売ることや、強者の前で闘いを放棄することを拒む意志についてのスティーグの強い思い。

 もし、スティーグが自作の映画を見たらどう感じるだろうか?
 少なくとも、スティーグが伝えたいテーマは、私には伝わってきたが。


【プロデューサー:ソロン・スターモス Sren Strmose】
 1952年デンマーク生まれ。
 北欧で長く映像制作に関わってきた。現在はストックホルム在住。
 制作会社イエローバードのプロデューサーとして「Wallander」「Irene Huss」シリーズのプロデューサーを務める。

 当時無名だったスティーグ・ラーソンの『ミレニアム』を読み、「戦う女性」リスベットの新鮮なキャラクターに強く惹かれ、全作の映画化権を獲得。小説がベストセラーになる前のことだった。
 よって、ソロン・スターモスはオリジナル版三部作とハリウッド・リメイク版の全てに製作として名前を連ねている。


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