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2013.05.13

映画『らくごえいが』を観てきた:東京芸大大学院・映像研究科の学生作品

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オムニバス映画『らくごえいが』

古典落語「ねずみ」「死神」「猿後家」を原作/原案とした3つの短編オムニバス映画。
落語家7人へのインタビューや落語家・桂三四郎さんによる「まくら」を交えた実験的落語映画。

【インタビュー】
三遊亭小遊三、春風亭一之輔、春風亭ぴっかり、笑福亭鶴光、立川志らく、林家三平、柳家わさび(50音順)

企画プロデュース:田中雄之
案内人:桂三四郎



「ビフォーアフター」
監督:遠藤幹大 脚本:敦賀零 原作:ねずみ
出演:田島ゆみか、音尾琢真、斉木しげる

大ヒットした漫画の映画化にあたって、ロケ地探しに苦労する映画製作会社の社員・林田かるほ(田島ゆみか)。 追いつめられた彼女は苦肉の策で、上司・左甚六(音尾琢真)を自分の実家に連れて行く。 さて、かるほと彼女の父(斉木しげる)の企みとは!?


「ライフ・レート」
監督:松井一生 脚本:嵯峨愁 原作:死神
出演:山田孝之、安田顕、本田翼

死神(安田顕)に、命を救ってもらった上、特殊能力まで授かった男(山田孝之)。
彼らの間には、一つの約束があった。 しかしある日、気の迷いで約束を破ってしまう男。
狂いはじめた男の運命と、 そんな彼と出会ってしまった作家志望の女の子(本田翼)の運命は、いかに。


「猿後家はつらいよ」
監督:坂下雄一郎 脚本:浦上毅郎 原案:猿後家
出演:加藤貴子、戸次重幸、村上健志(フルーツポンチ)、西方凌

映画版「古典落語「猿後家」」の撮影現場にて。"猿"に似ていることがコンプレックスで、"猿"という言葉に過剰反応する後家さんと、 そこに出入りする商人との軽妙なやり取りが見所の演目。
撮影はラストシーンを残すのみとなったが、主役がなかなか現場に姿を現さない。
困り果てたプロデューサー(加藤貴子)は監督(戸次重幸)に、無理を承知であるお願いをするのだが……。


【感 想】

先ず第一に、キャストの豪華さに、なぜか「羨ましぃ~!」
というのも、このオムニバス映画は東京芸大大学院の映像研究科の学生さんが実習の一環として制作したものだそうで。

学生のショートムービーに斉木しげるさんとか山田孝之さんがご出演というのはなかなかないことで、キャスティングからも、この作品に対するプロデューサーの熱意と意気込みが伝わってくる。

作品そのものに関しては、予めそれぞれの原作になっている古典落語「ねずみ」「死神」「猿後家」の内容を把握した上で観劇。
私自身は日本の古典には日本人が大切にしてきた日本人ならではの感性が生きていると思っており、いつかはきちんと日本の古典を勉強してみたいという思いが続いている。
そんな思いの延長として、ここ数年は落語の面白さへの関心が高まっていた。

落語というのは日本独自のストーリーテリング(口承物語)であり、数百年を経て今に残っている作品というのは、時代を超えた普遍的テーマを内包している。

そんな落語に目をつけて、現代に置き換える本作の試みって、「待ってました!」という感じでした。


学生さんの作品にしては、三本ともそれなりに頑張って作られていると思う。
んで、全体を通しての感想は、インタビューで何人かの落語家さんが語っていたことに99%同感でした。


「すごく落語に忠実に作るか」
「一度落語をぶっ壊して作るか」


これは、この作品に限らず、原作モノを映像化(映画、テレビドラマともに)する時に決めなければならない基本方針ですね。

原作モノをドラマにする場合、脚本家のサガとして、「一度原作をぶっ壊して」作りたくなります。その場合、大切なことは、テーマだけは変えてはいけないということ。
テーマまで変えてしまったなら、その原作を使う意味がなくなるからです。

原作者によっては、自分の作品を勝手にいじられるのを嫌がる人もいるでしょうが、そもそも、文学表現と映像表現は違うものであり、紙媒体で表現されたものをそのまま映像にしてもドラマにはならない場合が多いんですよね。


原作と映像化については、『風林火山』をはじめ多くの作品が映画・TVドラマ化されている小説家の井上靖氏は自作の映像化(脚色)について以下のように述べてます。


「原作者としては映画製作関係者の方々にお願いしたいことは、作品の持っている主題とかニュアンスを生かしてもらいたいことである。

 映画と文学は異なるので、必ずしも原作に忠実であれとは望まない。
 構成が変わっても、人物の出し入れが変わってもいっこうにさしつかえない。
 しかし、主題と作品の持ち味だけは大切にして貰いたいと思う。

 筋が、会話をいくら大切にして貰ってもまるで違った味の作品になったり、主題が捻じ曲げられたりするのは困る。
 仮に叙情的な作品が、叙情をふっきった作品になるとしたら、原作者は自分の作品の、一体何を買われたので、ということになる。その反対でも同じことである。


 要するに原作者としての願いは、自分の作品の持つ一番大切なものを生かして貰いたいということ、そのためにはどのように映画的に料理されても少しも不快でない」



その意味で、今回の三作品が時代や設定などが変われど、どれだけ原作の持つテーマを観客に感じさせてくれたか・・・それが評価の基準になるでしょう。


三本のうち、最も笑わせてくれたのが『猿後家はつらいよ』
劇場内でも再三笑いが起きてました。

内容は三谷幸喜さんの『ラヂオの時間』や『笑の大学』のように“大人の事情”によって、作品がどんどん改変(改悪)されていく過程が描かれているわけだけど、独自の設定でセリフ、展開ともにテンポよく、監督とプロデューサーの立場の違いからくる温度差も上手く描かれていて、安心して笑うことができた作品。

ただ、見終わって一つの疑問が湧いてきた。それは映画の中で取り上げる演目は『猿後家』でなくてもよかったのでは? 
他の演目でも十分成り立つお話・・・とそう思わせてしまったことだけは、ちょっとだけ減点かも。

いやいや、『猿後家』だからこそ、心にもないおべんちゃらを言いながら世を渡っていかねばならない“大人の事情”というテーマが浮かび上がるのであって・・・といわれれば確かにそう。そこが現代のドラマと明確にリンクされていたら、完璧なショートムービーになったと思います。

でもでも、この作品はショートムービーとしてはとても面白く、良くできた作品でした。


映画終了後に、プロデューサーと『猿後家はつらいよ』の監督によるトークショーがあり、その後にお二人からお話を聞くことができました。


プロデューサーの田中雄之さんは、この作品はドキュメンタリーのつもりで作ったとの事。

確かに映画全体の構成が、普通の映画とは異なる。

冒頭、落語家7人の「らくごえいが」を見る前の期待インタビューから始まる。
そして、各話の“マクラ”(導入)を落語家・桂三四郎さんが語り、
終わりに、「らくごえいが」を見た後の感想インタビューを7人の落語家が語る。

中には厳しく、辛らつな感想などもあり賛否両論だが、たとえ自分たちにとってマイナスな評価でも一切カットしていないという。

これは、この映画が“大人の事情”に翻弄されない、自由な発想のもとに作られた作品であるということの証だと思う。

さらに田中さんは、落語には笑わせるだけの滑稽話だけでなく、人情話や怪談話というジャンルもあるのだということを伝えたかったそう。

よって演目の選択も以下のように。
『ビフォーアフター』:人情噺     原作『ねずみ』
『ライフ・レート』  :怪談(ホラー) 原作『死神』
『猿後家はつらいよ』:滑稽噺    原作『猿後家』


どの作品からも、映画作りにかける熱い思いは伝わってきました!


シネマート新宿
では5月17日まで上映中。

『らくごえいが』公式サイト

案内人の落語家・
桂三四郎さんがゲスト講師の市ヶ谷落語塾
 受講生募集中!  詳細はコチラへ。


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