『女といっしょにモスクワへ行きたい』・・少年の夢が詰った忘れられないタイトル。永い時を経てこの詩と再び再会した。
amazonで見つけて、注文していた本が届いた。
『女といっしょにモスクワへ行きたい』
一人の少年の書いた詩のタイトルがこの本のタイトルになっている。
この詩と出会ったのはずっと昔、私が20代で、自分が脚本家になるなんて夢にも思ってなくて、同人誌に詩を発表していた頃。
短大の社会福祉科を卒業後、思うところがあって歯科衛生士の専門学校で資格を取得。障害児・者専門の歯科診療所で5年余仕事をした。
この診療所では、盲学校・聾学校・養護学校などへそれぞれ月に一度、歯科衛生士2名でブラッシング(歯磨き)指導に行っていた。
国立・宇多野病院筋ジストロフィ病棟の子どもたちへの指導も月一で行われていた。その時に読ませていただいた文集の中にあったのが『女といっしょにモスクワへ行きたい』というタイトルの詩。
このタイトルに私は激しい衝撃を受けた。
この詩の作者・春田君はとても賢くて利発そうな少年に見えた。
そんな春田少年の印象と『女といっしょにモスクワへ行きたい』というタイトルの言葉がどうしても結びつかなかった。そんなミスマッチと同時に、このタイトルの音楽的かつ詩的な響きや果てしなく広がる少年の夢などが強烈に印象に残り、このタイトルは今でも私にとってベストワンといえるほどのタイトルとなっている。
歯科衛生士の仕事を辞め、夫の仕事の都合で東京へ転居して、脚本の勉強をしている頃、俳優の菅原文太さんの手によって、春田君はじめ宇多野病院筋ジストロフィ病棟の子どもたちのそれまでの詩や短歌、俳句、小説などが一冊の本となって出版された。それがこの本だ。
この本が出版された頃だったと思うが、菅原文太さんがラジオ番組でこの本の中の作品を朗読すると知り、ラジオにかじりついて聞いたことを覚えている。
改めて今、この本を手にして、93人の子供たちのプロフィールを読んでいると、当時、ブラッシング指導をしていた子供たちの名前がある。中には今でもハッキリと顔を覚えている子供もいる。
そして、生年月日を見てちょっと驚いたのは、“少年”のイメージがあった春田君は、私が指導に行っていた頃は16才~20才くらいの思春期の年頃だったということ。
なが~いこと、『女といっしょにモスクワへ行きたい』と思った少年の夢とは、一体どんな夢だろう? なぜモスクワなんだろう? と思い続けていたけど、春田君が思春期の男の子らしい夢を持っていたことに納得。そして、なんだか安心した。
なぜモスクワ? については、当時モスクワオリンピック(1980年)のボイコット問題がクローズアップされており、結果として日本はオリンピック参加をボイコットした。春田君はそんな世の中の動きを筋ジストロフィ病棟から見ていて、それがこの詩になったのかもしれない。
『女といっしょにモスクワへ行きたい』 作・春田茂行
人間はいつもしごとであけくれる
人間はいつもあそびにあけくれる
人間なんてかってきままである
人間関係はむずかしいものだ
人間関係はいつも楽しくありたい
人間はいつもダンスにあけくれる
人間はいつもあたらしいぶきをつくりたがる
人間はとみとちえがひつようだ
人間はいがみあってはいけない
人間はしんじつをのべるひつようがある
人間は一生愛に生きそして愛に死ぬ
だから私は女といっしょにモスクワへいきたい
春田君は、この本が出版される前年、筋ジスによる筋の萎縮が内臓にまで及んだものの、呼吸を楽にするための気管支切開を拒否して、26才で逝去されたそうです。
他にも名前に記憶のある子供たちが筋ジスの進行によって亡くなられたことが記録されている。
この本が出版されてから28年。
私は彼らの傍を通り過ぎた人間に過ぎないけど、この本の中に記された多くの名前と作品と、そしてこの本のタイトルは、ずっとずっと、これからも忘れないと思う。
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