同じものだけど…ちがった奴をくれ! ブレイク・スナイダーの「10のストーリー・タイプ」
Give me the Same thing… Only Different!
『SAVE THE CATの法則』(ブレイク・スナイダー著)の第2章のタイトルです。
この第2章では、個性的な作品、面白い作品を作るために必要なものの一つとして、自分の作りたい作品のジャンルを知ること、同じジャンルの作品をできるだけたくさん観ることを勧めています。
引用-P49~
平凡でないもの、典型的でないものを作るには、まずはそれまでの歴史や伝統をよく知る必要がある。これまでに製作された何百本という映画、特に自分の書きたい脚本と同じジャンルの映画については徹底的に知っておくべき。
ところが驚いたことに、映画で身を立てようとしている人間が、映画の引用が出来ない。自分が書きたいジャンルの映画さえ引用できないのだ。
いいかい、言っておくけど、名監督はみんな引用できるんだ。
引用とは「その映画がどう機能しているか、その仕組みを説明できる」ということ。
映画というのは、感情を引き起こすために作られた複雑な機械のようなもの。これを部品に分解して、組み立て直すようにならなければ。
そのためには、好きな映画、最近の映画だけでなく、もっともっと歴史を遡って、いろいろな映画の種類を知り、どんな系統にはどんな作品があり、どうして発展してきたのかを理解しなければならない。つまり<ジャンル>
平凡でなく《同じものだけど…ちがった奴》を作るには、自分の映画のジャンルを熟知し、ひねりの加え方を学ばなきゃいけない。
書いてる途中、道を見失った時、同じジャンルの作品を参考にし、プロットや登場人物からヒントをもらう。
【スナイダー独自の10のジャンル】
1 家のなかのモンスター(Monster in the House)
『エクソシスト』(73) 『ジョーズ』(75) 『エイリアン』(79) 『13日の金曜日』(80) 『エルム街の悪夢』(84) 『危険な情事』(87) 『トレマーズ』(90) 『ジュラシック・パーク』(93) 『スクリーム』シリーズ(96~) 『パニック・ルーム』(02) 『ザ・リング』(02) 『ソウ』(04)など
◆「危ない! 奴に食われるな!」という単純で原始的なルール。
◆音声を消して上映しても<話はわかる>映画。
◆取り憑かれた屋敷など幽霊関係の話もこのジャンル。
◆限定空間に“異物(モンスター)”が侵入することで、登場人物はそれとの対決を強いられる。
◆ホラーばかりでなく、おなじ構造を利用したコメディもある。
2 金の羊毛(Golden Fleece)
『オズの魔法使い』(39) 『荒野の七人』(60) 『特攻大作戦』(67) 『がんばれ!ベアーズ』(76) 『スターウォーズ』(77) 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85) 『大災難P.T.A.』(87) 『プライベート・ライアン』(98) 『ロード・トリップ』(00) 『オーシャンズ11』(01) 『そして、ひと粒のひかり』(04)など
◆ギリシャ神話に由来。
◆主人公は何か(金の羊毛)を求めて旅に出かけ、途中で人々と出会い、いろいろなことを経験。最終的に発見するのは別のモノ=自分自身。
◆大事なのは、進んだ距離ではなく、どう変化したか。
◆《ロードムービー》を書く際に知っておいたほうがいいジャンル。
◆《泥棒モノ》も含む。
3 魔法のランプ(Out of the Bottle)
『コクーン』(85) 『ラブ・ポーションNo.9』(92) 『マスク』(94) 『ナッティ・プロフェッサー/クランプ教授の場合』(96) 『フラバー』(97) 『ハート・オブ・ウーマン』(00) 『ブルース・オールマイティ』(03) 『ハービー 機械じかけのキューピッド』(05)など
逆バージョン:願いの代わりに、呪いが叶う(天罰が下る)
『フリーキー・フライデー』(76) 『オール・オブ・ミー/突然半身が女に!』(84) 『恋はデ・ジャヴ』(93) 『ライアーライアー』(97) 『フォーチュン・クッキー』(03)など
◆主人公は魔法に(もしくは呪いに)かかり、最終的に勝利を収める。
◆「もしも~があったらいいのに……」というタイプのお話。
4 難題に直面した平凡な奴(Dude with a Problem)
『コンドル』(75) 『ターミネーター』(84) 『ダイ・ハード』(88) 『愛がこわれるとき』(91) 『シンドラーのリスト』(93) 『ブレーキ・ダウン』(97) 『タイタニック』(97) 『ディープインパクト』(98) 『オープン・ウォーター』(03)など
◆映画のスタイルやジャンルも様々で、引き起こす感情の幅も広い。
◆どこにでもいそうな奴が、とんでもない状況に巻き込まれるストーリー。
◆普通の人間が、勇気を振り絞って、解決しなければならない問題に直面する。
5 人生の岐路・人生の節目(Rites Of Passage)
『失われた週末』(45) 『酒とバラの日々』(62) 『テン』(79) 『クレイマー、クレイマー』(79) 『普通の人々』(80) 『男が女を愛するとき』(94) 『28DAYS』(00) 『ナポレオン・ダイナマイト(旧題:バス男)』(04)など
◆人生の節目になるような出来事や経験を扱う。
6 バディ(相棒)との友情(Buddy Love)
ローレル&ハーディ、ボブ・ホープとビング・クロスビー、『赤ちゃん教育』(38) 『女性№1』(43) 『パットとマイク』(52) 『明日に向かって撃て』(69) 『ワイルド・ブラック/少年の黒い馬』(79) 『48時間』(82) 『E.T.』(82) 『リーサル・ウェポン』(87) 『レインマン』(88) 『恋人たちの予感』(89) 『テルマ&ルイーズ』(91) 『ウェインズ・ワールド』(92・93) 『ジム・キャリーはMr.ダマー』(95) 『タイタニック』(97) 『トゥー・ウィークス・ノーティス』(02) 『ファインディング・ニモ』(03) 『10日間で男を上手にフル方法』(03) 『ブロークバック・マウンテン』(05)など
◆男同士や警官同士や友情だけでなく、ラブストーリーも含まれる。また女同士、魚同士、少年と犬なども。
◆バデイの仮面を剥がせば、ラブストーリー(逆に言えば、ラブストーリーはセックスの可能性がプラスされた《バディとの友情》映画)
◆最初<バディ>はお互いを嫌っている。旅をしていくうちにお互いの存在が必要だと気がつく。やがて、連れ添ってきたバディと喧嘩になる。しかし、お互いなくして生きていけず、エゴを捨てて仲良くするしかないことを最終確認。二人は覚悟を決める。
◆もし《バディとの友情》の脚本を書きたいなら、このジャンルの構成やパターンをしっかり理解しよう。
◆DVDを何十本も観て、じっくり研究してみると、こんなにパターンがそっくりだったんだ!とわかる。
◆なぜパターンが似てしまうのか? そのパターンだったら、必ず上手く行くと分かっているから。
7 なぜやったのか(Whydunit)
『市民ケーン』(41) 『チャイナタウン』(74) 『大統領の陰謀』(76) 『チャイナ・シンドローム』(79) 『ブレード・ランナー』(82) 『JFK』(91) 『ファーゴ』(96) 『インサイダー』(99) 『ミスティック・リバー』(03) 『BRICK ブリック』(06)など
◆フーダニット<だれがやったのか?>よりも、重要なのはホワイダニット<なぜやったのか?>
◆<犯罪>が<事件>として明るみに出た時、その背後にある想像もしなかった人間の邪悪な性が暴かれるというジャンル。
◆探偵モノや社会派ドラマの共通項:
観客を人間の心の闇へと連れて行き、スクリーン上の探偵が観客の代わりにその謎を解くかに見えるが、真相を突き止めるのは観客自身。観客は探偵が集めた情報をもとに自分でその真相を明らかにし、意外な結果に衝撃を受ける。
◆もし、推理モノを書きたければ、《なぜやったのか?》の名作をいろいろ見るべき。探偵がどういうふうに観客の代わりをしているか、よく観察。そして登場人物の心の闇を探ることが観客自身の内面を探ることになるのか考えてみる。
8 バカの勝利(The Fool Triumphant)
『天国から落ちた男』(79) 『トッツィー』(82) 『アマデウス』(84) 『レナードの朝』(90) 『チャーリー』(92) 『デーヴ』(93) 『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94) 『チャンス』(97) 『キューティ・ブロンド』(01) 『40歳の童貞男』(05)など
◆ストーリーとしては最も古いタイプ、サイレント時代の道化物、チャップリンやキートン、ロイドなどもここに含まれる。
◆負け犬のバカに対してもっと大きくて権力の悪者-たいていは体制側-が存在する。
◆どんなに神聖で立派な体制や組織であっても、<バカ>は容赦せずおちょくり、こてんぱんに批判する。
◆賢いバカのストーリーは、社会のアウトサイダーの人生でもある。アウトサイダーが勝利すると、観客も自分が勝利したような快感を味わう。
9 組織のなかで(Institutionalized)
『M★A★S★H マッシュ』(70 アメリカの軍隊・群集心理の狂気)
『ゴッドファーザー』シリーズ(72~ マフィア一族)
『カッコーの巣の上で』(75 精神病院)
『アニマル・ハウス』(78 大学・優等生サークルVS劣等生サークル)
『9時から5時まで』(80 企業・上司 VS OL)
『ドゥ・ザ・ライト・シング』(89 ブルックリン・人種)
『リストラ・マン』(99 コンピューター企業)
『アメリカン・ビューティ』(99 現代アメリカの郊外)
『トレーニングデイ』(01 新人刑事の1日)
『クラッシュ』(05 多民族国家アメリカ)など
◆組織や集団、施設、家族や一族のストーリー扱うジャンル。
◆組織や集団を動かす根底に狂気や自滅的なものが多いという共通項。
◆個人よりも集団を優先することの是非を描く。
10 スーパーヒーロー(Superhero)
『レイジング・ブル』(80 ミドル級チャンピオン)
『バッドマン』(89 犯罪都市ゴッサム・シティ、億万長者)
『ライオンキング』(94 動物たちの王国プライド・ランドの王子)
『マトリックス』(99 天才クラッカー)
『グラディエーター』(00 聖剣士)
『ビューティフル・マインド』(01 天才数学者・統合失調症)
『スパイダーマン2』(04)
◆《難題に直面した平凡な奴》の対極。超人的な力を持つ主人公が、ありきたりで平凡な状況に置かれ、周囲から理解されない。超人的な才能を持つ一方で、辛さや苦しみも抱えている。
◆フランケンシュタイン、ドラキュラ、X-メンなども同じジャンル。
ボグラー独自の10のジャンルかどうかは別にして、プロの脚本家は作品に取り組む前に、同じようなテーマの作品をたくさん観るって、自然にやっていることではないでしょうか。
私は観ますね。構成の段階から、とにかく自分の作りたい作品のキーワードに引っかかりそうな映画、本、資料はできるだけ多く観て、読む。
そして、頭の中に100の情報が集まったとして、作品の中に投影されるのは10~20くらいか。作品の中で使わない情報は取捨選択して、バックストーリーで使うこともあります。
しかし、たくさんの作品を観たら、似てこないか?
ボグラーは次のように言ってます。
これパクリじゃない? と思ったら……パクるのをやめる
これってお決まりのパターンじゃない? と思ったら……ひねりを加える
よくあるやり方? と思ったら……新しい方法を考える
しかし、まずは、お決まりのパターンを使いたくなる理由と利点をきちんと理解しておこう。パターンやルールが生まれるのには、それ相応の理由がある。
ルールをしっかり理解し、応用できるようになると、そういったものに制約されている感覚がなくなり、開放感を感じるはず。
打ち破りたいものを理解してはじめて、本物の創造性を発揮できるのだから。
ところでクリストファー・ボグラー&デイビッド・マッケナの『物語の法則』に【プロの映画脚本家になりたい人のための五カ年計画】という章があって、ラストに
□100日間で100本の台本を読む を挙げています。 |
○脚本を読み終えるごとに、ストーリーのシノプシスを2~3ページにまとめる。 |
中心となるキャラクター、主眼となる対立、相互アクション、話の始まり、 中盤、終わりなど物語の根幹を見つけ出す。 |
○脚本の内容を一文でまとめる(ログライン) |
◆脚本を読むことで、自分がマスターしたい形式が分かってくる |
◆脚本の構成要素を分解することで、それぞれの要素がどう機能しているかを学ぶことができる。 |
結局、スナイダーもボグラーたちも同じことを言ってるわけです。
映画の歴史を遡って、できるだけ映画をたくさん観て、たくさん読んで、分析してみること。そして、それぞれの要素がどう機能しているかを知り、身につけることで、それらのルールを応用して、より新しい独自の個性的なものとして創造できる、と。
ということで、映画の仕事をしたければ、歴史を遡り優れた作品をたくさん観ようね、学生諸君!
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