生演奏&弁士で『カフェ・エレクトリック』(1927)を観た。映画初主演の26歳のマレーネ・ディートリッヒは・・・・・!
フィルムアルヒーフ・オーストリアの無声映画コレクション】
映画の上映は午後と夜の二回で、夜の部の発券・開場は開映30分前の18時30分から。18時過ぎにジャック・ドゥミ展の7階から1階に降りて、ビックリ。休憩スペース「映画の広場」には入場待ちの人々がギッシリ!
「いつもより多いね」
「マレーネ・ディートリッヒの初主演作だからじゃないの」
そんな会話が聞こえてきた。
私の場合はたまたまこの日に来たのだけど、マレーネ・ディートリッヒをお目当てに来ている人も多いのか! なるほど!
本日のプログラム
『理想の映画づくり』 IDEALE FILMERZEUGUNG
1914年(7分・無声・染色・ドイツ語インタータイトル)
トリック撮影や染色による色の使い分けを駆使して、フィルムの穿孔、撮影、現像、プリント、字幕作成など映画製作の各工程を解説。
映画というメディアの技術的側面を主題にした初期映画にはきわめて珍しい作品。
全編、奇麗に染色されていて、今のアニメを見ているような感じで、映画製作の工程が楽しくテンポよく見れた。当時のカメラにフィルムをセットする様子なんてネットの画像でしか知らなかったので、勉強になりました!
日本語訳の説明字幕が出るので、内容は読めば分かるんだけど、ただ、7分間、無音です。会場がシーンと静まり返った中で全員がスクリーンだけ見つめ続けるって、なんか妙に緊張してしまった……。
『カフェ・エレクトリック』 CAFÉ ELEKTRIC
1927年(91分・無声・白黒・ドイツ語インタータイトル)
監督:グスタフ・ウチツキー
原作:フェリックス・フィッシャー
脚本:ジャック・バハラハ
撮影:ハンス・アンドローシン
美術:アルトゥア・ベルガー
出演:フリッツ・アルベルティ、マレーネ・ディートリッヒ、
イゴ・スム、ヴィリ・フォルスト
[解 説]
撮影から転向したウチツキー3作目の監督作。副題は「女が道を踏み外すとき」。
マレーネ・ディートリッヒとヴィリ・フォルストが、それまでの端役から一挙に主役に引き上げられて脚光を浴びた。本作完成後、サーシャ創業者のコロヴラート伯爵が死去。ウチツキーも本作の成功を機にウィーンを離れ、ドイツに活躍の場を移すことになる。
現存するフィルムはラストが失われている。
[あらすじ]
街の中で親切そうに女性に近づくフェルディ(ヴィリ・フォルスト)。
が、女性のバックをひったくって逃げた。
近くにいた男たちがフェルディを追いかけるが、結局見失う。
物陰から出てきたフェルディはほくそ笑む。
そして、風紀のよろしくない酒場カフェ・エレクトリックへ。ここでは、ホステスのハンジィ(ニーナ・ヴァンナ)から金を巻き上げたりとジゴロっぷりを発揮。
そんなフェルディが目を付けたのが資産家の令嬢エルニ(マレーネ・デートリッヒ)。ジゴロの手練手管でエルマを誘い出す。
エルニには父の会社の建築士で生真面目なマックス(イゴ・スム)という恋人がいるが、面白みのないマックスよりもフェルディに惹かれ、エルニはついにフェルディと一晩を過ごしてしまう。
その夜、マックスはエルニが自分に嘘をついて他の男(フェルディ)と出かけていくのを目撃。一人落ち込んでカフェで新聞を読んでいると、そこに仕事前のハンジィがやって来て、同席する。だが、マックスはハンジィには無関心。ハンジィはテーブルの上に口紅で悪戯書きをする。それを見てマックスはやっと笑顔を見せてくれた。
自分を酒場の女としてではなく、普通の女としてみてくれるマックスに新鮮な驚きを感じ、恋に落ちてしまうハンジィ。
ジゴロ=フェルディの計算どおりエルニはもうフェルディに夢中で、借金のある彼のために父親(フリッツ・アルベルティ)のお金と指輪を盗んでフェルディに渡してしまう。
そのことが元で家を勘当されてしまうエルニ。
フェルディは冒頭のひったくり事件で警察に捕まり、刑務所行きになる。
まさに副題の「女が道を踏み外すとき」です。
一方、ハンジィはカフェ・エレクトリックの仕事を辞め、マックスと結婚する。
マックスはハンジィにカフェ・エレクトリックにはもう行かないよう、昔の仲間たちとも会わないよう約束させる。
二人の生活は苦しかった。それでもなんとか二人で助け合って生きていこうとするのだが……。
しかし、カフェ・エレクトリックのことで誤解が誤解を生み、マックスはハンジィに裏切られたと思ってしまう……。
※このあとラストの部分のフィルムが失われているが、字幕で内容説明がある。
刑務所を出所したフェルディは、自分が刑務所行きになったのはハンジィのせいだと逆恨みして、彼女に斬りつける。
その事件を通して、ハンジィがカフェ・エレクトリックに行ったのは、自分のためと知ったマックスは彼女と和解。
その後二人は幸せに暮らした。
※参考 http://www.puettner.com/film05.htm
令嬢から、悪い男に引っかかり、転落していったエルニ。
娼婦に近いどん底の生活から、誠実な男と出会い、ささやかながら確かな幸せを得たハンジィ。
享楽的、退廃的、かつ物質的な生活よりも、貧しくても愛に満たされた生活をしていれば、きっと幸せになれる……う~む、勧善懲悪的? 間違ってはいないけど。
ストーリーは前半はエルニ(マレーネ・デートリッヒ)の転落が中心で、後半はハンジィ(ニーナ・ヴァンナ)の幸せ探しが中心。なので、マレーネ・デートリッヒは前半の主役といった感じでしょうか。
この作品を見て一番驚いたのは、マレーネ・デートリッヒがあまりにもピチピチしてて健康的なこと。
マレーネ・デートリッヒといえば、
←こんな感じで『リリー・マルレーン』を歌っている女優さんのイメージが強かったから。
デートリッヒは『カフェ・エレクトリック』から2年後の1929年に師匠のマックス・ラインハルト演出の舞台で初主役を獲得。
翌1930年、この舞台が『嘆きの天使』の撮影のためドイツに来ていたハリウッドの監督ジョセフ・F・スタンバーグの目に留まり、中学教師を堕落させる踊り子ローラ=ローラ役に大抜擢される。
その年、パラマウントに招かれてハリウッドへ行き『モロッコ』の主役を。
スタンバーグ監督は「マレーネは私の創造物である」と言ってます。
退廃的なムードを出すには頬をくぼませた方がいいと考え、奥歯を抜かせるような手荒なことまでして独特のキャラクターを創造したそう。
ディートリッヒはスタンバーグ監督の期待に見事に応えて退廃的な美貌、官能的な歌声、素晴らしい脚線美を最大限に活かしてこの大役を見事に演じ切り、映画は世界で大ヒットし、国際的な女優になりました。
まさに、身を削るような努力……。
『カフェ・エレクトリック』の中で、思わず笑ってしまったのは、フェルディ(ヴィリ・フォルスト)がエルニ(マレーネ・デートリッヒ)に「ギャンブルのツケを払わないととんでもないことになる」とお金を無心する時、コップの水を目の下に付けて泣いてる振りをするシーン。
これは、奇才エリッヒ・フォン・シュトロハイム監督・主演の『愚なる妻』(1921年アメリカ)では有名なシーン。ヨーロッパの貴族出身と偽って上流階級の女を狙う詐欺師がシュトロハイム。彼は、金持ちの女だけではなく、自分の家のメイドが金を溜め込んでいると見るや、結婚をちらつかせて「ギャンブルのツケが……」とフィンガーボウルの水を素早く目の下に垂らすんです。
シュトロハイムもオーストリア出身。オーストリア方面では女を騙すテクとして一般的だったんでしょうかね(笑)
ディートリッヒ以外のその後。
監督のグスタフ・ウチツキーはこの作品の後、ドイツへ行きナチス政権下で映画を撮っており「ナチお抱え映画監督」の一人といわれたこともあるよう。
ヴィリ・フォルストは俳優としてだけでなく、監督、脚本家としても作品を多く製作。
『未完成交響楽』(1933)監督、脚本、『たそがれの維納』(1934)監督、脚本
『マヅルカ』(1935)監督、『ブルグ劇場』(1936)監督、『維納物語』(1941)監督、出演
など大活躍しています。
それから、ゲアハルト・グルーバー氏のピアノ生演奏は素晴らしかった。
一人で90分以上も、画面に合せての演奏だけど、本当に映像にピッタリのテンポと曲調で、映画の中に浸ることができました。
また、この回の弁士は片岡一郎氏。
弁士つきのは初めてだったのでちょっとワクワク。でも、日本語字幕はついてるし、生演奏もあるし・・・サイレントはそれで十分伝わってくるので、余計なト書きとかも語られたら作品に入っていけないかも・・・と心配になり始めた。でもでも、映像の流れ、感情の流れを遮らない、最小限のセリフで構成された素晴らしい語りでした!
【伴奏者・弁士紹介】
ゲアハルト・グルーバー Gerhard Gruber/ピアノ
1983年に劇場の作曲・音楽家になり、1988年より無声映画の伴奏を始める。レパートリーは約490本。この分野の第一人者として本国のフィルムアルヒーフ・オーストリアやオーストリア映画博物館の他、世界中の映画祭や上映会で活躍している。
片岡一郎(台本、語り
2002年に澤登翠に入門。これまで手掛けた無声映画は洋・邦・アニメ・記録映画と約300作品。活動弁士の他に、紙芝居、声優、書生節、文筆も手がける。行定勲監督『春の雪』や奥田民生のパンフレットDVDにも弁士として参加している。
下の動画はフェルディ(ヴィリ・フォルスト)とエルニ(マレーネ・デートリッヒ)が初めて出会いダンスを踊るシーン。ピアノはゲアハルト・グルーバー氏。
グルーバー氏がUPしている動画です。
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