アニメ『サイボーグ009』第16話「太平洋の亡霊」:自衛隊を“我が軍”などとつい本音をもらしてしまった人にも見て欲しい
特攻隊で命を落とした兵士からのメッセージが込められた作品。
つい最近このアニメのことを知ったんだけど、以前から有名な作品だったんですね。
アニメ『サイボーグ009』第16話「太平洋の亡霊」
放送:1968年7月12日 金曜19時30分~20時
アニメーション制作:東映動画
放送局:NET(現・テレビ朝日)系列
原作:石森章太郎
演出:芹川有吾
脚本:辻真先
声の出演
009:加速装置を持つ不死身の島村ジョー - 田中雪弥
001:天才赤ん坊で超能力者イワン - 白石冬美
002:飛行能力を持つジェット - 石原良
003:高性能レーダー並の視覚能力と聴覚能力のフランソワーズ- 鈴木弘子
004:全身隠し兵器のアルベルト - 大竹宏/内海賢二
005:怪力インディアンのジェロニモ - 増岡弘
006:火炎放射能力の中華料理店店主・張張湖 - 永井一郎
007:自在な変身能力のいたずら小僧・グレート・ブリテン - 曽我町子
008:潜水能力を持つピュンマ - 野田圭一
ギルモア博士:ゼロゼロナンバーを改造した科学者 - 八奈見乗児

レースの事故後、サイボーグ009となった島村ジョーが、8人のサイボーグ仲間たちと共に悪と戦うSFヒーロー・アクション。

第二次世界大戦で死んだはずの日本軍の亡霊が幽霊戦闘機や幽霊軍艦となって出現。米軍戦闘機や戦艦を次々と襲撃する。目的はアメリカ本土への攻撃。巨大な幽霊軍艦は原子爆弾を落とされてもビクともせずアメリカ西海岸へ向かっていく。
サイボーグ009たちは、今になってなぜ幽霊戦闘機・戦艦が出現したのか原因を探っていく。
そして、特攻隊で息子を失くしたある老科学者の存在が浮上する……。
上のYoutubeの動画は14分30秒にカットされている。
Youtubeの場合、通常アップロードは15分以内という制限があるので、それに合わせていくつかのシーンをカットしたのだと思う。
ということで、どんなシーンがカットされているかというと……
《注》以下、完全ネタバレです
声 「これより出撃する。東洋永遠の平和を祈りつつ、沖縄に向かう」
いつの間にか零戦が並んで飛んでいる。
源 「どうしたことだ? 平は特攻隊で死んでいるはずだ。貴様は誰だ?」
事態が飲み込めず激しく混乱している源、思わずミサイルを撃ってしまう。
平 「どうしても止めない気だな? 思い出の20ミリ機関砲をくらうがよいっ!」
平、源の自衛隊機に向かって機関砲を撃つ。
ビキニの原爆実験で沈んだ戦艦長門が甦り、米海軍の戦艦を襲撃。
009「わからない……一体誰が、どこで、どんな力で、日本海軍を復活させているん
だ?」
カットされているシーン②8分12秒~
源 「平、許せ、許してくれ。貴様らの死を無駄にはせん!」
パラシュートで脱出した源は病院のベッドの上で、いまだ混乱している様子。
001「幽霊事件は次々と起こったけど、個人の名前が出たのはこの鹿屋基地の場合
だけだ。ボクはそこに興味を持ったんだ。彼のうわごとに出てくる、平って特攻隊
の人のこと調べたよ」
カットされているシーン③これ以降は細かくカットされている
平博士「連合艦隊を復活させた私の力をみくびってはならん」
平博士は、人間の脳は通常は1/3しか使われていないが、秘めたる部分を最大限に利用する方法を発見したのだという。
平博士「かくて、長門は浮かび、金門湾に出撃す。地獄の炎がゴールデンゲートブリッ
ジを飴のように曲げるのだ!」
長崎の平和の像、沖縄のひめゆりの塔、祈るセーラー服の女学生など平和を祈願する映像に重ねて日本国憲法第9条の条文が流れる。
平博士「だが・・・今やその誓いは虚しかった! 世界の各国は軍備
の拡張・兵器の力を広げることにしのぎを削っている。
平博士「天罰が原子力空母に下ったぞ!火柱に包まれとるわい」
009は飛びかかろうとするが、バリアーに阻まれて弾き返される。
平博士「無駄だというのに」
平博士の脳裏にサンフランシスコで大パニックに陥り逃げ惑う住民の様子が見える。
※乳母車が坂道を転げ落ちていくシーンは『戦艦ポチョムキン』(1925)の「オデッサの階段」のオマージュでしょうか。
動揺する平博士。
009「ひとりの息子を失ったあなたは、その千倍の悲劇を作ろうと
している!」
頭を抱える博士の前に、特攻服姿の息子の幻が現れる。
平息子「パパ……」
009達は、誰もいない空間に話しかけている平博士を、ただ黙って見守っている。
平博士「お前の気持ちは分かっている!」
そして、息子は博士の頭のカプセルをそっと外してやる。
平息子「パパ、僕達の魂を、これ以上いじらないでくれないか?
お願いだ、昔の優しいパパに戻っておくれ。僕と一緒にトンボ取りをしてくれた
パパみたいに……」
優しく頷く平息子。
平博士「ああ、勇太郎……かわいそうなせがれ……」
博士は幻の息子を、そっと胸に抱きしめた。
航行するドルフィン号の船上で……
009「平博士は、亡くなりました。急に様子が変わり、倒れてしまったのです」
静かな海上を帰っていくドルフィン号。
1968年……今から47年前に、「反戦」を強烈に謳ったアニメ作品が作られていたんですね。
脚本の辻真先氏によると
また、憲法の文面を画面に出す趣向については、脚本に書きながらも無理だろうと思っていたそうだ。
当時はやはりクレームが来たそうで、
作家性を一歩も譲らずに守り抜くその姿勢があったからこそ、この作品は普遍のテーマを持つ名作となったんだと思う。
※猖獗(しょうけつ)
ニコニコ動画では全編を見ることができます。
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Youtubeの場合、通常アップロードは15分以内という制限があるので、それに合わせていくつかのシーンをカットしたのだと思う。
ということで、どんなシーンがカットされているかというと……
《注》以下、完全ネタバレです
カットされているシーン①4分44秒~
大空を自衛隊機が、一機飛んでいる。
自衛隊機に乗っているのは源(ゲン)一佐。鹿児島の鹿屋基地(かつて特攻隊の最大基地)と交信していると、突然、何者かの声が割り込んでくる。
声 「これより出撃する。東洋永遠の平和を祈りつつ、沖縄に向かう」
源 「なんだこりゃ?!」
声 「源、俺だ。平(タイラ)だ。貴様の左を見ろ!」
いつの間にか零戦が並んで飛んでいる。
源 「どうしたことだ? 平は特攻隊で死んでいるはずだ。貴様は誰だ?」
平 「覚えているか?薩摩富士に別れを告げて、南へ飛んだあの日のことを。貴様
は運が良かった。わずか1日の違いで命拾いしたな」
は運が良かった。わずか1日の違いで命拾いしたな」
源 「(困惑)まさしく平だ。あの時の零戦だ……」
平 「ところでお前は何に乗っている?」
源 「これは、航空自衛隊の……」
平 「では、お前はまだ戦争で飯を食っているんだな ?!」
源 「戦争で? ばかな!」
平 「それではなぜ、武装している? 俺は明日の平和を信じて、
命を捨てた。その死を犬死にさせるつもりか?
戦争で儲け、戦争で食う日本人が一人でもいる限り、
死んだ我々に平和はない!」
命を捨てた。その死を犬死にさせるつもりか?
戦争で儲け、戦争で食う日本人が一人でもいる限り、
死んだ我々に平和はない!」
源 「やめてくれっ!」
事態が飲み込めず激しく混乱している源、思わずミサイルを撃ってしまう。
平 「どうしても止めない気だな? 思い出の20ミリ機関砲をくらうがよいっ!」
平、源の自衛隊機に向かって機関砲を撃つ。
たちまち破損する機体。源はパラシュートで脱出する。
ビキニの原爆実験で沈んだ戦艦長門が甦り、米海軍の戦艦を襲撃。
放射能まみれの艦体でサンフランシスコに向っている長門。
009たちは、なんとか進撃をやめさせようと放射能防護をして長門に乗り込む。
その時、原爆を搭載した米戦闘機が長門に向かい、009たちは危機一髪で長門から離れる。
米軍機は長門に向って原爆を投下。
しかし、長門はビクともせず、それまでの10倍、放射能汚染された艦体でサンフランシスコに向う。
009「わからない……一体誰が、どこで、どんな力で、日本海軍を復活させているん
だ?」
カットされているシーン②8分12秒~
原因を調査していた003と001から報告が入る。
自衛隊の鹿屋基地の源一佐の映像がギルモア博士のもとに送られてくる。
源 「平、許せ、許してくれ。貴様らの死を無駄にはせん!」
パラシュートで脱出した源は病院のベッドの上で、いまだ混乱している様子。
001「幽霊事件は次々と起こったけど、個人の名前が出たのはこの鹿屋基地の場合
だけだ。ボクはそこに興味を持ったんだ。彼のうわごとに出てくる、平って特攻隊
の人のこと調べたよ」
カットされているシーン③これ以降は細かくカットされている
平の父親は超心理学の研究者で九州の与那島に研究所があるという。
早速、与那島に向う009たち。
そして、与那島の洞穴の奥にある平の父・平博士の研究所を突き止め、超念力を送る透明なカプセルを頭にかぶった平博士を発見。
平博士はすべて自分が起こしたことだと認める。そして、長門はあと2時間でサンフランシスコに突入し、放射能をまき散らすという。
平博士はすべて自分が起こしたことだと認める。そして、長門はあと2時間でサンフランシスコに突入し、放射能をまき散らすという。
009たちはなんとか止めさせようとするが、超高圧電磁バリアーに阻まれて平博士に近づくことができない。
平博士「連合艦隊を復活させた私の力をみくびってはならん」
009 「復活だって? 一体、どうしてそんなことができるんだ?」
平博士「この機械が、私のイメージを形に現せるんだ。私は神に等しい力を持った
のだ!光あれよと叫べば光ありき、日本海軍復活せよ!と叫べば、ご承知の
通り」
のだ!光あれよと叫べば光ありき、日本海軍復活せよ!と叫べば、ご承知の
通り」
009 「信じられない」
平博士は、人間の脳は通常は1/3しか使われていないが、秘めたる部分を最大限に利用する方法を発見したのだという。
平博士「かくて、長門は浮かび、金門湾に出撃す。地獄の炎がゴールデンゲートブリッ
ジを飴のように曲げるのだ!」
009 「そんなばかな? 平博士あなたは気が狂っている!」
平博士「狂っているのは私ではない! 人間だ! お前達だ!
かつて日本は誤れる戦いをし、多くの若い命を犠牲にして
しまった。その時、我々は彼等の魂に何と誓った?
そして、我々は戦争放棄を憲法によって定め、二度と軍隊
を持たぬと宣言した。
しまった。その時、我々は彼等の魂に何と誓った?
そして、我々は戦争放棄を憲法によって定め、二度と軍隊
を持たぬと宣言した。
世界中が戦争はもうこりごりだと、そう心から考えたはず
だ!
なぜなら、それだけが、死者の魂を慰める、たったひとつ
の方法だからだ!」
だ!
なぜなら、それだけが、死者の魂を慰める、たったひとつ
の方法だからだ!」
長崎の平和の像、沖縄のひめゆりの塔、祈るセーラー服の女学生など平和を祈願する映像に重ねて日本国憲法第9条の条文が流れる。
平博士「だが・・・今やその誓いは虚しかった! 世界の各国は軍備
の拡張・兵器の力を広げることにしのぎを削っている。
私の一人息子は戦争で死んだ。死者が生きて帰らぬ以上、
生きているわしは何をなすべきか? コレがわしの回答
だ!」
生きているわしは何をなすべきか? コレがわしの回答
だ!」
旧日本軍は、アメリカ軍への猛攻撃を続けている。
勝ち誇ったように高笑いする平博士。
平博士「天罰が原子力空母に下ったぞ!火柱に包まれとるわい」
009「やめろっ!」
009は飛びかかろうとするが、バリアーに阻まれて弾き返される。
平博士「無駄だというのに」
009「やめるもんか!その悪魔の機械をぶっつぶすまで!」
平博士「悪魔の機械だと?」
009「そうだ!あなたは神になったつもりだろうが、それは違う!
戦いを憎むと言いながら、次から次へと戦いを産み、争いを
まき散らしているじゃないか?
念力でサンフランシスコが見えるなら、よく見てみるがいい!」
戦いを憎むと言いながら、次から次へと戦いを産み、争いを
まき散らしているじゃないか?
念力でサンフランシスコが見えるなら、よく見てみるがいい!」
平博士の脳裏にサンフランシスコで大パニックに陥り逃げ惑う住民の様子が見える。
乳母車が坂道を転げ落ちていき、母親が「ぼうや~!」と悲痛に叫ぶ。
※乳母車が坂道を転げ落ちていくシーンは『戦艦ポチョムキン』(1925)の「オデッサの階段」のオマージュでしょうか。
動揺する平博士。
009「ひとりの息子を失ったあなたは、その千倍の悲劇を作ろうと
している!」
平博士「わしは、わしは間違っていない! 死んだ息子を弔う道はこれしかないんだ!」
頭を抱える博士の前に、特攻服姿の息子の幻が現れる。
平息子「パパ……」
平博士「どうしたことだ、お前がここに来るなんて……。」
平息子「今、パパが呼んだんだよ。心のどこかでボクに会いたい、会ってボクの意見を
聞きたい。そう思ったんだよ」
聞きたい。そう思ったんだよ」
009達は、誰もいない空間に話しかけている平博士を、ただ黙って見守っている。
平博士「お前の気持ちは分かっている!」
平息子「本当にそう思う?」
そして、息子は博士の頭のカプセルをそっと外してやる。
その途端に戦艦長門は前進を止め、そのまま海へと沈んでいく。
平息子「パパ、僕達の魂を、これ以上いじらないでくれないか?
お願いだ、昔の優しいパパに戻っておくれ。僕と一緒にトンボ取りをしてくれた
パパみたいに……」
平博士「勇太郎……私はまだお前を抱いてやることができるだろうか……」
優しく頷く平息子。
平博士「ああ、勇太郎……かわいそうなせがれ……」
博士は幻の息子を、そっと胸に抱きしめた。
戦艦や戦闘機が、静かに海の中に戻っていく。そして、元の朽ちた姿へと還っていった。
航行するドルフィン号の船上で……
009「平博士は、亡くなりました。急に様子が変わり、倒れてしまったのです」
ギルモア博士「多分、彼は自分の間違いに気が付いたのだ。何かの力がそうさせた
んだ。そのため念力の力が急速に消耗してしまった。
んだ。そのため念力の力が急速に消耗してしまった。
しかし、わしにはわからん……。
狂った悪魔は平博士だったのか? それとも平和の名を借り
て、戦争の準備を怠らぬ人間どもの方なのか……」
狂った悪魔は平博士だったのか? それとも平和の名を借り
て、戦争の準備を怠らぬ人間どもの方なのか……」
静かな海上を帰っていくドルフィン号。
END
1968年……今から47年前に、「反戦」を強烈に謳ったアニメ作品が作られていたんですね。
この頃は、実際に戦争で息子や身内を亡くした親たちがいて、中には平博士のように我が子を奪った戦争への怒りを敵国への復讐というかたちで果たさんと憎悪をたぎらせていた人もいたかもしれません。
戦争によってもたらされた悲劇を戦争によって復讐する……
しかし、国のために命を捧げた人たちが望んでいるのは、そんなことでしょうか。
その答えが、この作品の中に明確に描かれています。
戦争と平和を考えるすべての人に見て欲しい名作です。
脚本の辻真先氏によると
「SF的なプロットは無茶苦茶でしたが、都築道夫さんの小説……『いじわるな花束』だったと思います……精神から物質を作り上げるというアイデアがありまして、それで強引にというか、正面きって徹底してやったわけです」
また、憲法の文面を画面に出す趣向については、脚本に書きながらも無理だろうと思っていたそうだ。
しかし、削除されるどころか芹川有吾氏の演出により、旧日本軍の亡霊の復活から瓦礫に還るくだりまでムソルグスキーの「禿山の一夜」が効果的に用いられて、憲法九条が心に強く迫る作品となった。
当時はやはりクレームが来たそうで、
「当時、某県の教育委員会の方から、猖獗(しょうけつ)を極めるアニメは子供たちに悪影響を与えるという文句がきました。そこで、岩波かどこかへこのフィルムをもっていき、上映と公開討論をやった覚えがあります」
作家性を一歩も譲らずに守り抜くその姿勢があったからこそ、この作品は普遍のテーマを持つ名作となったんだと思う。
※猖獗(しょうけつ)
(名)スル(好ましくないものが)はびこって勢いが盛んであること。「-をきわめる」「羅馬の郭外は,強賊勢(いきおい)-にて/慨世士伝逍遥」 [大辞林 第三版より]
ニコニコ動画では全編を見ることができます。
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