映画『嘆きの天使』-1 あまりにもストレートな中年独身男の破滅的転落物語
『嘆きの天使』 原題:DER BLAUE ENGEL
製作年度:1930年 上映時間:107分 製作国:ドイツ
監督 ジョセフ・フォン・スタンバーグ
原作 ハインリッヒ・マン 『ウンラート教授―あるいは、一暴君の末路』
脚本 カール・ツックマイヤー、カール・フォルメラー、ロベルト・リーブマン、
ジョセフ・フォン・スタンバーグ
音楽 フリードリッヒ・ホレンダー
製作 エリッヒ・ポマー
■キャスト
ラート教授:エミール・ヤニングス
ローラ・ローラ:マレーネ・ディートリッヒ
座長キーベルト:クルト・ゲロン
まずはシナリオ分析してみよう。
以下、ネタバレ全開.ご注意を.
【ログライン】
謹厳実直なギムナジウム(ドイツの中等教育機関)の教授が、自由奔放で妖しい魅力を持つ歌手に魅かれ、結婚。旅芸人一座の中で過去のプライドを捨てきれずに破滅へと向かっていく話。
【構成】
全103分(私が観たのは103分だった)
第1幕:ラート教授の日常 約18分30秒
第2幕:異質の世界、異質の人間たち。ローラに魅了されて 約60分30秒
ミッドポイント(もう元に戻れない地点) 始まって55分頃
第3幕:屈辱を抱えての帰還 発狂まで 約24分
【構成詳細】
第1幕:ラート教授の日常
ハンブルグの街のウィンドーに旅芸人一座の魅力的な歌手ローラ・ローラのポスターが貼られている。
その街のギムナジウムの英語教授イマヌエル・ラートは中年の独身男。手帳や時間のチェックを怠らず厳格で生真面目な人間。カナリアと暮らしているが、ある朝、カナリアが死んでしまう。
賄いの女は「歌をやめたのね」と無造作に死んだカナリアを火の中に放り込む。ちょっと悲しそうなラート.
学校ではラートの融通の利かないあまりの堅物ぶりに、生徒たちはウンラートと渾名をつけて嘲っている
※ウンラート(Un-rat):汚物、汚水、不用物、廃物、塵芥、屑
ラートは授業中、生徒が見ていた写真を取り上げる。扇情的な女歌手のブロマイドだ。いじめられっ子の優等生から生徒数名がその歌手に会うため『嘆きの天使(The Blue Angel)』というナイトクラブに夜な夜な出入りしていることを知る。
第2幕:非日常の世界に踏み込むラート
前半
規律の乱れを正すため、生徒を捕まえに『嘆きの天使』へ行くラート。
ところが、生徒を探して楽屋に迷い込んでしまったラートは例の写真の歌手・ローラと出会う。
「君は本校の生徒を誘惑してる」というラートに対して「ここは幼稚園じゃないわ」と言い返すローラ。
「迷惑のようだから、帰る」とたじろぐラートに「邪魔にならなきゃ、居てもいいわ」というとローラは舞台に出て行く。
入れ替わりにやってきた団長はラートがローラ目当てにやってきたものと勘違いし「さすが先生、お目が高い」
ラートは慌てて「私は抗議に来たんだ。学生を隠したろ!」と言ってる矢先、隠れていた学生たちが逃げ出す。
学生たちを取り逃がしたラートは、自室に戻りポケットからハンカチを取り出す。と、なんとポケットにローラの下着が入っている。学生の一人がラートをからかうために密かに入れたのだ。
複雑な顔でローラの下着を眺めるラートだった。
翌夜 、ラートはローラに下着を返すために再び『嘆きの天使』へ向かう。この夜もローラの部屋に来ていた学生たちは慌てて地下室に隠れた。
「また来てくれると思ってたわ」と余裕のローラに対して「これを間違って・・・」と言い訳するラート。そんなラートの心を見透かしたように、ラートの乱れた髪を梳かしてやったりと男の扱いに慣れているローラ。
ローラの優しさにとろけそうな顔になるラートだ。学生たちは地下室の入り口から密かにそんなラートを盗み見ている。
『嘆きの天使』の店主がローラ目当ての客・船長を案内してきて、ローラに船長の相手をするように強要する。嫌がるローラを見てラートは船長に乱暴を振るい警察沙汰になってしまう。
警官が謹厳実直な街の名士ラートの肩を持ったことで一件落着。
一部始終を見ていた学生たちがついにラートに見つかった。
「ここに何しに来た?」と問うラートに「先生と同じです」と反抗的な学生たち。次の瞬間、ラートは生徒たちを殴り飛ばし、店から追放した。
「悪ガキ相手じゃ先生も大変ね」とローラや団長から一目置かれ、ラートは特別席に案内されてローラの歌を聴く。ローラの甘い歌声にラートの厳しい顔がどんどんほぐれていく。ローラに魅了されているラート。
MP(ミッドポイント) 翌朝、飲みすぎたラートはローラの部屋で目を覚ます。
後半
ローラが用意してくれた朝食を食べようとした時、街のからくり時計のチャイムの音が響き渡る。ギムナジウム始業の時間だ。慌ててローラの部屋を飛び出すラート。初めての遅刻だった。
「先生、女くさいですよ」と学生たちは大騒ぎで、その騒ぎについに校長までやってくる。
「そんな女のために信用を落とすのは損ですよ」と忠告する校長にラートはキッパリという。「失礼ですぞ、校長。彼女は私の未来の妻です」
かくて、ラートは校長からクビを宣言されてしまった。
ラートは一大決心をしてローラに会いに行く。そしてローラにプロポーズ。最初、ローラは何かの冗談かと笑い転げたが、ラートの気持ちは真剣で、ついに二人は芸人仲間や店主たちの祝福を受けて結婚した。
この世で最も幸せな鶏の鳴き真似をするラートとローラ。
「歌を止めた」死んだカナリヤの代わりに、生き生きと歌い続ける歌姫ローラを手に入れた幸せなラートだった。
一座は巡業の旅を続けていく。
最初の頃は「自分の蓄えがあるうちはブロマイドなんか売るな」と言っていたラートも段々と蓄えがなくなり、いつの間にかローラの歌が終わると客席を回って彼女のブロマイドを売り歩くほど落ちぶれていた。
しかし、かつて教授であった頃のプライドだけは捨てきれずに、髭を伸ばしたままの見た目は教授の時のままだ。
ローラや団長に髭を剃れと言われてラートは「こんな暮らしを続けるより、野垂れ死にする方がマシだ!」と部屋を飛び出ていく。
しかし、行く当てのないラートはすぐに舞い戻ってきた。ローラはそんなラートを見透かしていたように余裕で「そこの靴下取って」と顎でラートをこきつかう。黙って妻の足に靴下を履かせるラートだ。
そして、1925年から1929年と時が経った。
ラートは今、ピエロの格好をして、ドーランを塗っていた。そこにご機嫌な団長がやってくる。
「喜べ。あんたが一座の花形になるんだ」
なんと、ラートの故郷ハンブルグのあの『嘆きの天使』で興行が決まったというのだ。
「嫌だ。あの町だけは絶対に行けない。それだけは許してくれ」
ローラもそんなラートの気持ちを思うと『嘆きの天使』での興行に反対する。
しかし、団長は「5年も女に養われた教授先生が、金の稼げる所へは行かんとおっしゃる。明日の朝、出発だ!」と強引にハンブルグ行きを決めた。
第3幕:屈辱を抱えての帰還
まもなく、ハンブルグの町の隅々に、「ラート教授 来演!」のポスターが貼られていく。
もとギムジナウム教授のラートのことはたちまち街中の噂になり、当時のもと同僚や生徒たちだけでなく市長までもが『嘆きの天使』に詰め掛けた。
団長と団長夫人によってラートの顔にピエロの化粧がされていく。開演ベルが鳴る。しかし、ラートは石のように固まったまま動かない。
ローラは自分に言い寄る男を適当にあしらいながらラートに「早く出なさいよ」と言い放つ。
それでも動かないラート。が、結局一座の者に押されるように、ラートは舞台に出ることになった。
舞台に出たラートの中で、何かが壊れていく。
この世で最も悲痛な鶏の声で鳴くラート・・・
そして、ラートの精神は悲劇的な終末へと向かう・・・
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