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2015.10.03

S・スピルバーグ監督『宇宙戦争』は傑作? 迷作? 異常事態に直面した“父性の欠落したダメ父”の成長物語

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『宇宙戦争 War of the Worlds』 
2005年 アメリカ 116分
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:ジョシュ・フリードマン、 デヴィッド・コープ
原作:H・G・ウェルズ『宇宙戦争』
音楽:ジョン・ウィリアムズ
撮影:ヤヌス・カミンスキー
編集:マイケル・カーン

出演
レイ・フェリエ     :トム・クルーズ
レイチェル(娘)   :ダコタ・ファニング
ロビー(息子)    :ジャスティン・チャットウィン
メリー・アン(元妻) :ミランダ・オットー
ハーラン・オグルビー  :ティム・ロビンス
ナレーター      :モーガン・フリーマン

【あらすじ】
アメリカ東部ニュージャージーに暮らすレイは湾岸労働者。別れた妻メリー・アンとの間には息子のロビーと娘レイチェルがいる。子供たちとの面会日、メリー・アンと再婚した夫がロビーとレイチェルを連れて来た。
二人の子供を預かり、久々に父子三人で過ごす時間。しかし、仕事で疲れたレイが一眠りしている間にロビーはレイの車で勝手に外に。
ロビーを探しに行くレイ。だが、その時、信じられない異変が起きた。突然、稲妻が地上を襲い、割れた地中から太古から埋められてたという異星人の戦闘機械トライポッドが出現、街を破壊し始めた。
息子と娘を連れ、レイの必死の逃避行が始まる・・・。

    


■鑑賞直後の感想
 スピルバーグらしい美しい映像があったり、VFXを駆使した宇宙人による破壊や殺戮の映像の迫力はすごかった。

 だが、ストーリーに関しては、正直、すごく違和感を感じた。その違和感とは、ハリウッド・エンタメ映画のキング、S・スピルバーグ監督作品にしてはハリウッド映画らしくない、という違和感。

 主人公レイ(トム・クルーズ)は、一応、元妻のもとに行くという目標がありながらも、ひたすら逃げるばかりだ。

 主人公は困難に直面し、それと闘うものと思い込んでこの作品を見ていたので、逃げるばかりの主人公像に肩透かしを食らったような気分になってしまった。
例えば・・・


・冒頭、湾岸労働者として働くレイは残業を頼まれるが断る。
 上司らしき男は「(他の)奴は、お前のように1時間に40個のコンテナは下せない」とレイのクレーン操者としての優秀さを愚痴交じりに語る。
 →おっ、この技術が伏線となって敵と戦うのかと期待。


・後半、オグルビー(ティム・ロビンス)と出会う。
 →さて、いよいよ、メンター(賢者)の登場だ。彼の助言を得て、主人公はトライポッ ドを倒すのか!と期待大。
しかし、残念ながら、すべての期待は裏切られ、あのテイム・ロビンスがあんなことになるとは?! の意外な結果に・・・
なんで、そうなるの? を解決するためには、一度冷静になってこの作品を分析してみるしかない。というわけで、分析してみました。
その前に・・・


■原作について
原作は、イギリスのハーバート・ジョージ・ウェルズ(H・G・Wells)が1898年に発表したSF小説『宇宙戦争』
高度に知能が発達した火星人が地球侵略のために攻めてくる。地球人は火器や銃器で応戦するものの歯が立たず、結局、火星人を滅ぼしたのは●●●だったという話。
攻めてくるのが、なぜ、火星人なのかというと・・・


1877年の夏、19世紀最大の火星最接近があり、絶好の観測機会が訪れた。イタリアの天文学者ジョヴァンニ・スキャパレリは、火星の表面を網目状に覆う筋模様を観測し、これを「カナリ(canali)」と呼んだ。

イタリア語でカナリといえば、「溝」や「水路」を意味する言葉だが、これがフランスの天文学者・作家のカミーユ・フラマリオンの著作を経て、「運河」を意味する英語の「キャナル(canal)」と誤訳されたために、火星には知的生物がいて、巨大な運河を築いているという説が生まれた。
とりわけこの説を信奉したアメリカのアマチュア天文学者パーシヴァル・ローウェルは、精密な運河地図を発表し、「火星の運河説」の啓蒙に尽力した(現在では目の錯覚だったことが判明している)。


おりしもスエズ運河をはじめとする巨大運河建設の時代。運河は科学技術のシンボルであり、もし火星全体を縦横に走るような運河網があるなら、火星には高度に発達した文明があるはずだと推測された。こうして火星人の存在が真剣にとり沙汰されるようになり、沙漠に大規模な火事を起こして、火星に信号を送ろうという提案まで大まじめでなされるようになった。

ということで、この時代「火星の運河説」が流行し、多くの「火星人ロマンス」小説が書かれていたそう。
 2015年9月28日 NASAは火星には今も水があるという観測結果を発表しました。

さて、H・G・ウェルズといえば、映画史的に最も有名なのが、“SF映画の父”と言われるジョルジュ・メリエス世界最初のSF映画『月世界旅行』(1902)

この作品は前半はジュール・ヴェルヌの「月世界旅行2部作」(1865・1870)、後半はH・G・ウェルズの「月世界最初の人間」(1901)を原案とした作品。

また『宇宙戦争』オーソン・ウェルズ のラジオ番組で視聴者にパニックを引き起こしたという有名なエピソードがあります。

1938年10月30日、オーソン・ウェルズと彼の劇団が、H・G・ウェルズの『宇宙戦争』を舞台をアメリカ東部に変えてラジオ番組で放送。ドキュメンタリー・タッチのその内容は、実際に火星人が侵略してきたと視聴者に信じこませるほど真に迫ったもので、全米に一大パニックが起きたそうです。

ではいよいよ、そんな原作をもとにした映画『宇宙戦争』の私的分析をしてみましょう。






注:ここからいきなりネタバレに入ります。ラストでは
ティム・バートン監督『マーズ・アタック!』(1996)のネタバレもあり。まだ観てない人、結末を知りたくない人はご注意ください。









■始まりと終わり
物語はモーガン・フリーマンのナレーションで始まり、彼のナレーションで終わります。

オープニング・ナレーション
 「21世紀初頭の人類は信じなかっただろう。人類を超えた知的生物が地球を監視していたことを。人類があくせくと日々を過ごしている間も彼らは観察を続けていた。人類が一滴の水の中にひしめく微生物を顕微鏡で目を凝らして観察するように。限りない自己満足で地球上を右往左往する人類・・・。彼らは自らを地球の支配者と信じていた。だが、はるか宇宙の彼方では高度な知能を持つ冷徹にして非情な生命体が地球に羨望のまなざしを注いでいた。そして、ゆっくりと着実に地球攻略の作戦を練っていた」


エンディング・ナレーション
 「侵略者が吸った空気。口にした物・・・それが彼らに破滅をもたらした。彼らを倒し、根絶したのは人間の武器や策略ではなく、神がこの地球に創りたもうた微生物だった。人類は何億もの命を犠牲にして、地球上の生物と共存してゆく権利を勝ち得た。その権利が侵されることはない。無駄に終わる人間の“生”そして“死”はないのだから」

私は原作小説は読んでないけど、始まりと終わりは原作そのままとのこと。
この始まりと終わりの間に、3つの対立が描かれている。
 
 ・人類(地球人)VS異星人(火星人)
 ・人間VS人間
 ・父VS子供

映画のタイトルからして“人類VS異星人”の戦いがメインと思って観ていると、肩透かしを食らってしまう。なぜなら、エンディングで語られているように、異星人を破滅させるのは、地球上の“微生物”。だから武器や特殊能力を持つスーパーヒーローは不要なんです。

“人類VS異星人”の戦いを背景にして、逃げ惑う人間同士の戦いも描かれている。

だが、最も丁寧に描かれているのは、父と子供の戦い・・・というか、異星人の侵略という異常事態に直面した父性の欠落した男が、子供との係り通して父性を獲得していく(父性に目覚めていく)話


■メイン・ストーリーは父親の成長物語
○冒頭からレイ(トム・クルーズ)のダメ父ぶりが分かり易く描かれている

 ▼時間にルーズ、家の中は乱雑、冷蔵庫にまともな食料がない
 ▼自分の都合しか考えてない
 ▼子供の成長にも目を向けていない
 ▼良い父親ぶりを見せようと息子ロビーとキャッチボールをするが、継父と比べ
  られて苛立つレイ。ロビーはレイの投げた球をキャッチせず、窓ガラスが割れ
  る(コミュニケーション不全のメタファー)
 ▼娘レイチェルの指に刺さった棘を抜いてやろうとするがレイチェルはレイに
  触られることを拒絶。
  レイチェル「抜かなくてもそのうち体が自然に押し出すわ」
         (この作品のテーマを提示)

○世界各地で磁気嵐、奇妙な落雷、地震などが起きている。
 レイの住む街でも落雷で空いた穴から巨大な戦闘機械トライポッドが出現し、破壊と殺戮が始まった。街中停電、車も動かず、携帯電話も通じず、時計も止まっている。

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レイは知人の車修理工場で唯一、動く車を見つけ二人の子供を乗せて猛スピードで街を逃げ出す。

 ▼パニックを起こし泣き叫ぶ娘をどうすることもできないレイ。
 ▼ロビーがレイの知らない“いつものおまじない”でレイチェルを落ち着かせる。

○再婚した元妻と子供たちの家に到着。元妻と夫は実家のあるボストンに行っており留守。まともな食料がなく、レイはパンにピーナツバターを塗ってサンドイッチを作ろうとする。


(35分頃 第1プロットポイント)
 ▼レイチェルが生まれた時からピーナツアレルギーだったことを知らなかったレイ。
 ▼ロビーはそんな父に批判的で「腹は減ってない」と食べようとしない。
 ▼良き父親らしく振る舞っていたレイ、子供たちの冷ややかな眼差しに、遂に
  頭にきてパンを窓に投げつける。

○翌朝、墜落した旅客機が家の外に(911のイメージ想起)
 テレビクルーからトライポッドに関する情報を得る。トライポッドは見えないシールドを張っていて、攻撃しても無駄。トライポッドが動き出すとそのエリアは音信不通になる…等。

 レイは子供たちを車に乗せて、元妻の実家のあるボストンへ向かう。
 途中、尿意を催したレイチェルのために車を留める。

 ▼レイチェルは「遠くに行くな」というレイを無視して川辺へ。そこで流れてくる多数
  の死体を目撃してパニックに陥る(川の死体は、ヒロシマを思い出してしまった)
 ▼ロビーは道路を通り掛かった軍隊のジープに「乗せてってくれ。あいつらと戦っ
  てぶっ殺してやる」と頼む。レイは「そんなことより、たった10歳の妹を戦いに巻
  き込まない方法を考えろ」と怒鳴る。

  するとロビーは「ボストンへ行くのは、俺たちをママに預けて面倒を避ける
  ためだろう。アンタはそういう自分勝手な奴だ」
と激しくレイに反発。
  ロビーの言葉がレイの胸に突き刺さる。

 ▼運転に疲れ果てたレイは、ロビーに運転を代わってもらう。無免許運転は絶対
  ダメとロビーに厳しかったレイが初めてロビーを頼りにした。
  父の変化に意外そうなロビー。

○ハドソン川に到着。レイの車は襲われて奪われそうになる。レイは護身用の銃を空に向けて発砲。だが、その銃も奪われ、レイ親子はカフェに逃げ込む。外ではレイの車の奪い合いで銃を撃ち合う音が。


(56分頃 ミッドポイント)
 ▼銃の音に驚いたレイチェルはレイのもとを離れてロビーに抱きつく。
 怯えて抱き合う娘と息子を目の前にして、自分がどれほど頼りない父親かを
  思い知り、あまりの情けなさに手で顔を覆い泣いてしまうレイ。

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○難民に混じってフェリー乗り場に向かうレイ父子。その時、背後にトライポッドが出現。レイは子供たちを連れて必死にフェリー乗り込んだ。しかし、フェリーはトライポッドの攻撃を受けて転覆。川に投げ出されたレイたちは何とか陸に上がる。
トライポッドと戦っている軍隊を見たロビーは一緒に戦うと言い出す。レイチェルを木陰で待たせ、ロビーの説得に向かうレイ。

 ▼レイ「戦いたい気持ちは分かる。だけどダメだ!俺が嫌いなら、それでいい。
     俺はお前を愛してる」
  ロビー「どうなるか見届けたい」
  レイ「妹のことを考えろ!」
 
 ▼レイチェルが難民夫婦に連れていかれそうになる。
  父と息子は反対の方向に走り出す。ロビーは軍隊へ、レイは娘の方へ。

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○レイ父娘は農場のハーラン・オグルビー(ティム・ロビンス)に出会い、彼の家でホッと一息つく。

 ▼レイチェルは母がいつも歌ってくれる子守唄を歌ってとレイに言う。だが、
  レイは「ブラームスの子守歌」も「お山の子守歌」も知らない。
  レイに背中を向け不安に耐えるレイチェル。

 ▼レイは静かに優しく子守唄のようにある歌を口ずさむ。

 ♪ベイビー自慢じゃないけど、俺の車はいつもブッちぎり。皆、勝負もせず引き
  下がる。翼を付けりゃ空を飛ぶ。俺の可愛いホットロッド。大切な俺の宝物…♪

  ビーチ・ボーイズの「Little Deuce Coupe」という歌だ。


▼レイチェルのために子守唄を歌うレイの目は涙で潤んでいる。
  娘への愛が心からふつふつと沸き上がってくる

○深夜、農場にトライポッドが出現、異星人が家に侵入してくる。
 オグルピーは「戦おうぜ。奴らにも弱点があるはずだ。大阪じゃ何体か倒したそうだ。日本人ができたんだぜ。俺たちだって倒せるはずだ。方法を考えよう」と戦う気満々。しかし、レイはオグルピーを何とか静かにさせて難を逃れる。

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○ところが、トライポッドが人間の血を吸い、残渣を霧のように吐き出すのを見てオグルビーは「俺の血はやらねえ、絶対やらねえ!」などとパニックで激しくわめき続ける。このままでは、トライポッドに見つかってしまう…。


(78分頃~ 第2プロットポイント )
 ▼レイはレイチェルに目隠しをし、オグルビーがわめき続ける部屋に入っていく。
  ドアが閉まり、間もなくオグルビーのわめき声が消えた。オグルビーを殺し、
  レイチェルのもとに戻ってくるレイ。

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 イチェルは初めて自分からレイの手を取り、レイの腕を自分の体に回さ
  せる。レイチェルは、娘を守るために父が“何をしたか”知っているのだ。
 身を寄せ合い、静かに眠るレイとレイチェル。

○翌朝、目を覚ますとトライポッドが家に侵入、斧で戦うレイだが、レイチェルはトライポッドの触手に捕獲されてしまう。レイは乗り捨てられた軍隊の車の中に手榴弾を見つけてトライポッドに投げるが、レイも触手に捕まりトライポッドの檻に放り込まれる。檻の中には捕獲された人間たちがひしめき、トライポッドは一人づつ吸い上げては血を吸っていた。

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 ▼レイチェルに覆い被ぶさって全身でレイチェルを守るレイ。
  娘のためなら自己犠牲も厭わない父親の姿がそこにあった。

 ▼ついにレイが吸い上げられる。その時、レイは持っていた手榴弾を吸い込み口
  からトライボッドの中に投げ入れる。トライポッドは爆発し、人間たちを閉じ込め
  ていた檻は地上に落下する。

○難民に交じって歩き続けるレイ父娘。ようやくボストンまで辿り着いた。
 そしてトライポッドに異変が起きていることを知る。勝手にグルグル回り始めてぶっ倒れたり、シールドも消えている。この時とばかりに軍はロケット砲でトライポッドを攻撃し、ついに総司令官らしい異星人が息絶えた。

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 ▼レイチェルを抱いて、元妻の実家に歩いていくレイ。家の窓から二人に気が付
  いた元妻が飛び出てくる。抱き合う母と娘。元妻はレイに心から「ありがとう」

 ▼レイを嫌っていた元妻の両親もレイの変化に驚いたように出てくる
  (両親役は1953年ジョージ・パル監督『宇宙戦争』の主役の二人)

 ▼さらに家の中からロビーがレイのもとに駆けてくる。お互いの無事を確認し、
  抱き合う父と息子。

 ▼困難を潜り抜け、子供を守り通し、無事母親のもとに子供たちを送り届けた
  レイ。そこには無責任で身勝手だったレイの姿はなく、父親としての責任を
  自覚し、父性溢れる頼り甲斐のある父親としてのレイがいた。

ポイント、ポイントでレイが変化していき、“どうしようもないダメ父”から“頼り甲斐のある父”へのキャラクター・アークがとても分かりやすく描かれています。


■武器は極力使わないヒーロー
もし、この作品に何かしら欲求不満を感じている部分があるとしたら、主人公がひたすら逃げているだけで戦ってないじゃん! っていうのがあるかもしれない。
・唯一、自宅から持って出た武器は護身用のピストル一丁。
・フェリー乗り場で子供たちを守り車を奪い返すために空に向かって威嚇の発砲。
 しかし、すぐに別の男からピストルで脅されて、レイは自分のピストルを投げ捨て
 る。レイ父子がカフェに逃げ込む。とレイのピストルを拾った男たちが車を奪い
 合い乱射の音。
・娘を守るために殺人を犯す。素手で部屋に入って行き、揉み合う音だけで殺人
 をイメージさせる。
・娘が触手に捕獲される直前、側にあったを手にする。
・娘が触手に捕獲された後、手榴弾をトライポッドに投げ入れる。

すべて家族を守るためだけに、レイは戦っています。
そこにスピルバーグ監督の明確なメッセージが込められているよう。
インタビューで、9.11やイラク戦争の影響についてスピルバーグ監督は以下のように語っている。


「SF 映画というのは、しばしばコンテンポラリーな問題に対するメタファーなんだ。1950年代のSF映画というのは原子爆弾に対して、そしてソビエトの核による大量虐殺の脅威に対して反応したものだった。そして、今9.11の後、『宇宙戦争』のような映画は、僕たち自身がテロリストたちに攻撃されるかもしれないことをどれだけ恐れているかを反映している。この映画は、アメリカ人の家族を難民にしてしまうんだ。それは、アメリカがこれまで一度も経験したことがないことだよ」


「この映画は家族というものがどれほど大切なのかを描いているのだ。家族のことを愛し、家族の安全を考えるなら、他国の侵略に賛成するなんて考えられないだろう。家族を愛することが、他国で戦争をすることよりもはるかに重要なことを解って欲しい」

息子は軍隊を目にするたびに「あいつら(侵略者・敵)と戦う!」と熱に浮かされたように軍隊の方へ行こうとします。

そんな息子の姿は“9.11直後のアメリカの(好戦あるいは報復)気分”のメタファーなのかもしれません。


■印象に残ったシーン

◇一つはパニックに陥ったレイチェルを落ち着かせるシーン
 ロビーは泣きわめくレイチェルに、胸の前で腕を組ませる。そして「これがお前のスペースだ。このスペースの中には誰も入ってこれない。だから、もう安心していいよ」と妹を落ち着かせます。

◇もう一つはラスト、レイチェルを抱いたレイが元妻の実家前の道をやって来る。元妻は実家の窓から二人に気が付く。レイはそこで立ち止まります。レイチェルは玄関に向かって走り母の胸に飛び込む。レイは今いる位置から動きません。ロビーが家の中から駆け出て来てレイと抱き合います。この時も、レイは今いる位置から動かない。

二つのシーンともにパーソナル・スペースについてのシーンだと感じた。
人は、自分のパーソナル・スペースを侵される(ズカズカ侵入されると)と、葛藤が起こり、不快、不安、敵意などのネガティブ感情を掻き立てられてしまう。

それは、個人のみならず、家族でも、社会でも、国家同士でも。
そのために喧嘩や対立、戦争までもが引き起こされる。、

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ラストのレイが自分が立っている位置から動かなかったのも、レイが現実を受け入れることができるようになり、相手(の家族)のパーソナル・スペースを尊重できるほどに成長した証だと思う。

物語スタート時のレイは育児や子育てに無関心、無頓着で生活費を稼いでくるだけの形だけの父親。離婚したのも自分のそんなところが原因とは露とも自覚してない。
「父親として、やるこたぁやってるのに、なんが不満なんだよぉ!」という感じ。

そのレイが自分に欠けていたものを学習、自覚し、相手の気持ちや立場を客観視できるようになる。そして、相手を尊重するということは、相手のパーソナル・スペースをも尊重することだと学んだ。


その成果がラストのレイの立ち位置に見事に表現されている。


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以上のことなどから、この『宇宙戦争』は、武器を持って戦うことへの虚しさ(反戦)と、家族愛を丁寧に描いた秀作・・・というのが私の結論です。



■確かに、突っ込みどころは多々あるけれど・・・
私が一番物足りなかったのは、ラスト前のトライポッドが崩壊していく原因について。
終わりのナレーションで“地球上の微生物”がトライポッドを破滅させたとあるのだけど、ここのところ、映像で「そうだったんだ!」と驚かせてほしかったなぁ。

観終わってすぐに思い出したのは、ティム・バートン監督『マーズ・アタック!』(1996)
ジャック・ニコルソン、グレン・クローズ、ナタリー・ポートマン、マイケル・J・フォックスなど豪華出演陣の“とんでも火星人襲撃”コメディ。ここに登場する火星人は、ハッキリ言ってサイコパス! 友好的に装ってバンバン地球人を殺していく。

その火星人を滅ぼしたのは・・・
なんと、おばあちゃんが大好きな1951年のウェスタンソング「インディアン・ラブ・コール」の周波数

ハラハラドキドキのカットバックで、「おばあちゃんが危ない!」と思わせておいて危機一髪、「インディアン・ラブ・コール」の音楽で火星人が滅びていく様は、ホッとすると同時に大爆笑です。

“微生物”にもこういうメリハリが欲しかったかも。

音楽が地球を救う…って素晴らしい発想!
エド・ウッド&ティム・バートン大好きなので、『マーズ・アタック!』はバカバカしくても無条件に好きっ!

『マーズ・アタック!』の問題のシーン ↓ はこれ。 

  



          

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