『サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルシネマへ』 キアヌ・リーブスが製作&ナビゲーターのドキュメンタリー映画(2)監督、映画関係者の声
ドキュメンタリー映画『サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへ』
2012年 アメリカ 99分
監督:クリス・ケニーリー
企画・製作・ナビゲーター:キアヌ・リーブス
およそ100年間の映画史において、唯一の記録フォーマットはフィルムだった。だが、過去20年間のデジタルシネマの台頭により、今やフィルムは消えつつある。
本作は、デジタルとアナログが肩を並べ─ side by sideで─併存する現在を俯瞰しながら、映画におけるデジタル革命を検証していく。
長年、俳優として表舞台に立つ一方、スクリーンの裏側でプロセスの変遷を見てきたキアヌ・リーブスが、自らホスト役となり、映画関係者へのインタビューを通じて、映画史の過渡期である今を切り取っていく。
ハリウッドの錚々たる映画監督たちと、撮影監督、編集者、カラリスト、現像所やカメラメーカーの社員らが、キアヌの質問に答えていく。
これは、「デジタルシネマの未来」についての映画ではなく、モノクロからカラーへ、サイレントからトーキーへと、技術とともに常に変化し続ける「シネマの未来」についての映画である。
公式サイトより http://www.uplink.co.jp/sidebyside/
マーティン・スコセッシ Martin Scorsese
『タクシードライバー』『グッドフェローズ』『シャッターアイランド』監督
『ヒューゴの不思議な発明』(2011年) 撮影:デジタル(カメラ/アリ Alexa)
デジタルという新たなメディア改革にワクワクしている。フィルムが支えてきた映画文化にはさらに先がある。新たな手段は有効に使えばいい。
ジョージ・ルーカス George Lucas
『THX 1138』『アメリカン・グラフィティ』『スター・ウォーズ』監督
『レッド・テイルズ』(2012年/製作総指揮) 撮影:デジタル(メインカメラ/ソニー F35)
『スターウォーズ』を撮り終えた1978年には、デジタル映像の実験を始めていた。専門部門を立ち上げ、専用のコンピュータを開発した。「業界を破壊する悪魔の化身だ」と大いに非難されたよ。
想像したことを実現するために、フィルムではできなかったことをすべて試したかった。デジタルの登場で、可能性の扉が開いたように感じた。
デジタル技術によって、映像も音声も加工の幅が広がった。映像と音声の加工をする僕らにとって、それはフィルムにはない魅力だ。
フィルムではあれほどの加工は実現できない。
コンピュータの習得は素人の私には大変だった。マウスは床を這うと思ってたけど、一から勉強して使えるようになった。すっかり気に入ったわ。
フィルムを扱うことで、コンピュータでは得られない訓練ができる。フィルムにハサミを入れ接合する作業には、決断力が要るからね。
編集室は静かなものだよ。フィルムの回る音はもう聞こえない。昔は騒々しくてにぎやかだったが、今はとても静かだ。香をたけるくらいだね。ロウソクもいい。
テクニカラー社 DIカラリスト
仕上げにおけるカラリストの役割は重要だ。僕のボタン操作1つで作品が変わる。もちろん監督たちから指示は受けるが、調整は直感に頼る部分が大きい。映像を完成させる最後の人間なんだ。 ジョナサン・フォークナー
フレームストア社 VFXスーパーバイザー
視覚効果部門は、まるでサンドイッチのようにフィルムを重ねていた。それがフィルムを劣化させる原因になっていた。デジタル化の利点は、劣化がまったくないことだ。 デニス・ミューレン
ILM社 VFXスーパーバイザー
視覚効果も100年の間は模型で工夫が重ねられた。だが昔の方法では限界があった。スターウォーズでは、大変な苦労を強いられた。 ゲーリー・アインハウス
コダック社 最高技術責任者
フィルムは撮影と保存のための媒体だ。だから正しい条件の下に保管すれば、100年後でも映像を見ることができる。フォーマットは変わらない。 ヴィンス・ペイス
キャメロン・ペイス・グループCEO
3Dにするにはカメラだけでなく、レンズ効果などもペアにする必要がある。2倍大変だと言われるが、それ以上だね。僕にとってのだいご味は、人びとを想像を超える世界に運べることだよ。
機材メーカー:レッド・デジタル・シネマカメラ社 創設者
デジタルはフィルムの良さを軽視し、質もフィルムより劣っていた。地上に存在するすべてのものは、より良いものへと進化させられると僕は思っている。問題は、誰がいつやるかだ。 アリ・プレスラー
機材メーカー:シリコンイメージング社 CEO
『スラムドッグ』で ドッド・マントルは、街を駆け回る子供の姿を同じ目線で撮ろうとした。当時はサイズ的にSI-2K以外に選択肢がなく、彼はバックパックにMacBook Proを入れ撮影データを保存した。 アレック・シャピロ
機材メーカー:ソニー社 販売マーケティング上席副社長
ソニー創設者 盛田昭夫は、ハリウッドに傾倒していた。35mmフィルムと同等の映像を撮影できる電子カメラを設計するのが彼の夢だった。
僕は「フィルムがなくなって失うものは何だろう」と考え、クリスは「デジタルで得るものは何だろう」と考えたんだ。
だから製作サイドとして意見の偏りがなく、それが映画に現れたんだと思う。
この作品の製作を通じて僕は多くのことを学んだ。そして、ミヒャエル・バルハウスが言う「情熱と愛情を持って何かをするなら手段は関係ない」という境地に達したんだ。

私たちはデジタル技術の起源と、それがいかに進化してきたかを探りたいと思いました。私たちの議論を内輪にとどめず、監督や撮影監督をはじめ映画産業に携わる人々に広げ、彼らがこの革命をどうとらえているのかを知りたいと思いました。キアヌと私は小さなチームを結成し、映画産業のこの変化を記録することにしました。
以上、公式サイトより http://www.uplink.co.jp/sidebyside/
◇フィルムカメラ撮影 → デジタルビデオカメラ撮影
◇上映用フィルムの焼増・現像 → デジタルデータの複製
■フィルムの特徴
◇解像度が高く、ダイナミックレンジが広い

◇長期保存できる

◆監督が撮影したラッシュ(ベタ焼きポシ・フィルム)を見るのに(現像で)1日かかる
■デジタルの特徴
編集箇所を自由に選択でき、映像データを即座に追加・削除・修正・並べ替えることができる

◇様々な上映形態の実現

(NHKクローズアップ現代「フィルム映画の灯を守りたい」より)
■役割分担の変化
◇撮影監督(Director of photography=DP)の地位が失墜
DPは、フィルムだけでなく、カメラやレンズの個性を熟知し、監督が思い描いた画を具現化するスキルを持っている。撮影から現像までの間、どんな画に仕上がっているかを知っているのはDPだけ。
デジタル撮影の場合、撮ったその場でプレイバック出来る為、フィルム撮影のDPほどの権限は持たない。
◇新たに生まれたポジション
◯VE(Video Engineer)
ある映像のなかの色彩を部分的にカラー補正する役割。
樹木なら樹木、車なら車と、気になる部分の対象の色彩だけをボタンひとつで自在
に修正するスタッフ
映画を見る時、フィルムかデジタルかを意識して観たことはほとんどない。
SFXやVFXの進化に驚嘆することはあるけれど。
仕事では脚本の決定稿を渡した後に、撮影現場に立ち会うことはあまりない。
連続モノの場合、最初の顔合わせや読み合わせで出演の俳優さんたちに会ったり、脚本打ち合わせで撮影所に行った時にスタジオにご挨拶がてら顔を出すことはあるけど、機材がどんなものが使われているかなど気にしたことないし。
やはり一番気になるのは、ストーリーがどのように映像化されていて、何を描きたいのかがちゃんと伝わっているかどうか。大事なのはストーリーテリング。
そういうふうに映画を見て来たので、『サイド・バイ・サイド~』を観て、ここまでフィルムからデジタルへと変化しているとは、正直とても驚いた。
日本では2013年にフジフィルムが映画用フィルムの生産終了。
続く2014年コダック社がニューヨーク州ロチェスターのフィルム製造工場の閉鎖を検討していたがクエンティン・タランティーノ、クリストファー・ノーラン、ジャッド・アパトー、J.J.エイブラムスら監督たちが映画フィルムの救済に立ち上がり、スタジオ(映画会社)連合の各社が年間一定量の映画フィルムの購入契約をすることで、フィルム製造工場の閉鎖は免れたという。
というわけで、このブログ記事を書きながら(書き始めてから書き終わるまでに2週間くらいかかってます)、改めてちょっと意識しながら下記作品を観てみた。
『28日後...』(2002)監督ダニー・ボイル:長編映画で初めて全編デジタル撮影の『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』と同年にこの作品も全編デジタル撮影で撮られた。
『バットマン ビギンズ』(2005年)、『ダークナイト』(2008年)、『ダークナイト ライジング』(2012年):断然フィルム派のクリストファー・ノーラン監督作品。
ダニー・ボイル監督は『28日後...』のあと『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)でデジタル撮影では初めてのアカデミー賞撮影賞(撮影監督アンソニー・ドッド・マントル)を受賞している。
『28日後...』は確かに冒頭からデジタルを意識させられる映像で始まっており、非現実の荒涼感が鮮明に伝わってくる。
クリストファー・ノーラン監督の一連の作品は夜の闇の深さが感じられフィルムの特徴が生かされた作品となっている。
ついでに、映画版『デアデビル』(2003)監督マーク・スティーヴン・ジョンソン
テレビ版『デアデビル』(2015)シーズン1 (2016)シーズン2 全26話を一挙見。
映画版はフィルムで撮られている。
テレビ版はどっちだろう? テレビ版は映像がとても印象的で主人公の盲目の弁護士マット・マードック(デアデビル)の部屋の窓の照明などが日本の必殺シリーズの照明と重なり、もしやフィルムで? と思ったんだけど、単にカラー調整されているだけなのかもしれない。
まあ、どっちだろうが、どの作品もキャラクターがしっかり描かれており、主人公の苦悩や活躍にどっぷり感情移入して観ることができ、面白かった。
監督がフィルムを選ぼうが、デジタルを選ぼうが、選択肢があるということが大切。時代はデジタル全盛に向かっていることは確実だけれど、フィルム派もぜひぜひ頑張って欲しい。
◆DI(Digital Intermediate:デジタル・インターミディエイト)
現像したネガ・フィルムをスキャン後、デジタル処理を行い上映素材を作るまでのプロセス。
◆DCI(Digital Cinema Initiatives:デジタルシネマ・イニシアティヴ)
デジタルシネマの映写及び配給に関する技術仕様を制定することを目的に、2002年にハリウッドのメジャー映画制作スタジオ7社が設立した業界団体。
◆DCP(Digital Cinema Package)
デジタルデータによる配信上映。
暗号化・圧縮化された映像・音声・字幕データ等全てを含む上映用ファイル。今まで映画の共通フォーマットであった35mmフィルムプリントに替わり採用されたデジタルデータを使用した上映方式。
◆ODS(Other Digital Stuff)
映画以外のデジタルコンテンツ。
映画館におけるデジタルシネマ機器の設置により、複数の映画館を次世代光ネットワークでつなぎ、サッカーや舞台挨拶の中継、オペラ・バレエ・宝塚歌劇団の公演や人気アーティストのライブなど、これまで映画館では不可能であった作品の上映が可能になった。
◆VPF(Virtual Print Fee:ヴァーチャル・プリント・フィー)
デジタルシネマ興行の漸次的普及を念頭に置いた映画館のデジタル設備投資の負担を緩和するためのファイナンス・システム。映画館がデジタルシネマ化すれば、配給会社が35mmプリントを製造するコストが軽減し、そのかわりにヴァーチャルなプリント代を払うというもの。日本では2012年にはほぼ全てのシネコンでこの金融システムが導入された。
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